潮が引いたサンゴ礁では、水深が急に浅くなり、小さな潮だまりがいくつも残ります。多くのサメにとって動きにくそうな環境ですが、ここを得意とするサメがいます。エポーレットシャークです。
細長い体と丸みのあるひれを持ち、泳ぐだけでなく、胸びれと腹びれを使って海底を歩くように移動します。浅瀬では水から体の一部を出しながら、別の潮だまりへ進むことさえあります。
さらに、潮だまりで酸素が少なくなる状況にも強く、普通のサメとはかなり違った暮らしをしています。
この記事では、エポーレットシャークの特徴、生息地、歩くような移動、低酸素への強さ、食べ物、繁殖について紹介します。
エポーレットシャークはどんなサメ?
エポーレットシャークの学名は Hemiscyllium ocellatum です。
テンジクザメ目の仲間で、細長い体と長い尾を持っています。成長すると全長1メートルほどになり、最大では107センチメートルほどの記録があります。
ホホジロザメやイタチザメのような大型のサメとは違い、海底近くで暮らす小型の種類です。
体は淡い褐色から黄褐色で、全身に小さな黒い斑点があります。
特に目立つのが、胸びれのすぐ後ろにある大きな黒い模様です。白っぽい縁取りがあり、大きな目のようにも見えます。
英名の「Epaulette」は、軍服などの肩につける飾りを意味します。この黒い模様が肩章のように見えることから、Epaulette Sharkと呼ばれるようになりました。
大きな目玉模様を持つ理由
胸びれの後ろにある黒い模様は「眼状紋」と呼ばれる、目のように見える模様です。
本物の目は頭部にあるため、黒い斑点はもちろん視覚器官ではありません。
こうした目玉模様には、捕食者に対して体を実際より大きく見せたり、狙う場所を惑わせたりする働きがあると考えられています。
幼いエポーレットシャークでは、成魚よりも体に帯状の模様が目立ちます。成長すると帯は薄れ、細かな斑点と大きな黒い眼状紋が目立つ姿になります。
体の模様は、似た種類のサメを見分けるときにも役立ちます。
グレートバリアリーフの浅瀬に暮らす
エポーレットシャークは、オーストラリア北東部のグレートバリアリーフ周辺に生息しています。
以前はニューギニアなどを含む広い地域に分布するとされることもありましたが、テンジクザメ類の分類が整理された現在では、Hemiscyllium ocellatum は主にオーストラリア北東部に分布する種類として扱われています。
好むのは暖かく浅い海です。
サンゴ礁の平らな浅瀬、砂地、サンゴの間、潮だまりなどで見られます。
特に潮の満ち引きが大きな場所では、水位が数時間のうちに大きく変わります。満潮時には海だった場所が、干潮になるとわずかな水しか残らないこともあります。
エポーレットシャークは、こうした変化の激しい浅瀬を利用して暮らしています。
ひれを使って海底を「歩く」
エポーレットシャークの最も有名な特徴が、歩くような移動です。
胸びれと腹びれを交互に動かし、体を左右にくねらせながら海底を進みます。
人間のように脚で立って歩くわけではありませんが、ひれを地面へ押し付けながら前へ進む姿は、確かに歩いているように見えます。
普段から泳げないわけではありません。
開けた場所では泳ぐこともできますが、サンゴや岩が入り組んだ浅瀬では、歩くような動きが役立ちます。
狭い隙間を進んだり、サンゴの周囲を移動したりしながら食べ物を探します。
干潮時には水深が極端に浅くなるため、体の一部が水面から出た状態で進むこともあります。
さらに、短い距離であれば水から出た場所を通って、別の潮だまりへ移動することもできます。
「陸上を生活場所にするサメ」というわけではありませんが、ほとんど水のない場所でも移動できる珍しいサメです。
酸素が少なくなっても耐えられる
潮だまりには、もう一つ大きな問題があります。
水中の酸素です。
海とつながっている間は新しい海水が流れ込みますが、干潮によって潮だまりが取り残されると、水の交換が少なくなります。
特に夜になると、サンゴや藻類を含む多くの生き物が呼吸によって酸素を使うため、水中の酸素濃度が大きく低下することがあります。
エポーレットシャークは、このような環境に強いことで知られています。
実験では、通常よりはるかに酸素の少ない水に数時間さらされても、体の基本的な働きを保てることが確認されています。
酸素が極端に少なくなると、体内で使うエネルギーを抑えながら耐えます。
サメは一般に酸素を含む海水をえらへ流して呼吸しています。そのため、「酸素の少ない潮だまりで何時間も過ごせる」という能力はかなり珍しいものです。
この低酸素への強さと歩くような移動を組み合わせることで、エポーレットシャークは潮の変化が激しいサンゴ礁の浅瀬を利用できます。
夜になると食べ物を探す
エポーレットシャークは、夕方から夜にかけて活発になります。
食べるのは、海底にいる小さな動物です。
主な食べ物には、
- ゴカイなどの多毛類
- カニ
- エビ
- ヨコエビの仲間
- 小魚
などがあります。
大型の獲物を高速で追いかけるサメではありません。
サンゴや岩の隙間、砂地などをゆっくり移動しながら、隠れている小動物を探します。
獲物を探すときには、においだけでなく、ほかのサメと同じように微弱な電気を感じ取る能力も利用します。
魚や甲殻類の筋肉が動くと、ごく弱い電気が発生します。サメは頭部にある感覚器官を使って、その変化を感じ取ることができます。
そのため、砂や岩の隙間に隠れた獲物を見つける手掛かりになります。
干潮時も狩りを続ける
潮が引くことは、エポーレットシャークにとって不利なことばかりではありません。
浅い潮だまりには、小魚や甲殻類なども取り残されます。
水深が浅くなれば、ほかの大型魚やサメは入りにくくなります。その一方で、エポーレットシャークは歩くような移動と低酸素への強さを持っています。
そのため、多くの大型捕食者が利用しにくい浅瀬でも食べ物を探せます。
長く細い体も、サンゴや岩の間を移動するのに向いています。
「速く泳いで獲物を捕まえる」という一般的なサメのイメージとはかなり違い、狭い場所を探りながら小さな獲物を捕らえるサメです。
卵から生まれる
エポーレットシャークは卵を産むサメです。サメというと母親の体内から子どもが生まれるイメージもありますが、繁殖方法は種類によって異なります。
エポーレットシャークの場合、メスは卵の入った卵殻を産みます。
Australian Museumによると、卵殻は長さ約10センチメートル、幅約4センチメートルです。中の胚は卵黄から栄養を得ながら成長します。
孵化までには約130日かかり、生まれたばかりの子どもは全長15センチメートルほどです。
幼魚も成魚と同じように浅いサンゴ礁を利用しますが、模様は少し異なります。若い個体では暗い帯が目立ち、成長するにつれて成魚らしい斑点模様へ変わっていきます。
オスは全長55〜60センチメートルほど、メスは55〜64センチメートルほどになると成熟するとされています。
人を襲うサメではない
エポーレットシャークは小型で、主にゴカイや甲殻類、小魚などを食べています。
人間を獲物として追いかけるようなサメではありません。
浅いサンゴ礁で人と同じ場所にいることもありますが、通常は海底を移動したり、岩やサンゴの周辺で食べ物を探したりしています。
一方、野生動物なので、捕まえたり無理に触ったりすれば噛む可能性はあります。
大型のサメとは違った意味で、浅いサンゴ礁での暮らしに特化した種類といえます。
現在は低懸念に分類されている
エポーレットシャークは、IUCNのレッドリストでは「低懸念(LC)」に分類されています。
グレートバリアリーフでは比較的よく見られる場所もあります。
一方で、分布範囲は広大な外洋を移動するサメほど広くありません。
浅いサンゴ礁との結びつきが強いため、長期的にはサンゴ礁の環境変化の影響を受ける可能性があります。
高温や酸素不足など変化の大きい環境に耐えられるサメですが、どのような環境変化にも強いわけではありません。
現在は絶滅の危険が高い種類ではないものの、暮らしているサンゴ礁の状態は重要です。
まとめ
- エポーレットシャークは全長1メートルほどになる小型のサメです。
- 胸びれの後ろに、白く縁取られた大きな黒い模様があります。
- 主にオーストラリア北東部のグレートバリアリーフ周辺に生息しています。
- 胸びれと腹びれを使い、海底を歩くように移動します。
- 干潮時には、短い距離なら水から出た場所を移動することもあります。
- 酸素が非常に少ない環境に数時間耐えられることで知られています。
- ゴカイ、カニ、エビ、小魚などを食べ、夕方から夜に活発になります。
- 卵を産み、孵化した子どもは全長15センチメートルほどです。
- IUCNでは低懸念に分類されています。
エポーレットシャークは、速く泳ぐことよりも、浅いサンゴ礁を自在に動くことを得意としています。ひれを使って歩き、酸素の少ない潮だまりでも活動できる体は、潮の満ち引きが激しい環境で暮らすこのサメならではの特徴です。
主要参考文献・参照ソース
- Australian Museum
Epaulette Shark, Hemiscyllium ocellatum - Aquarium of the Pacific
Epaulette Shark - FishBase
Hemiscyllium ocellatum - IUCN Red List / IUCN SSC Shark Specialist Group
Hemiscyllium ocellatum - Allen, G. R., Erdmann, M. V., White, W. T., Fahmi & Dudgeon, C. L. (2016)
Review of the bamboo shark genus Hemiscyllium (Orectolobiformes: Hemiscyllidae).
Journal of the Ocean Science Foundation, 23, 51–97. - Wise, G., Mulvey, J. M. & Renshaw, G. M. C. (1998)
Hypoxia tolerance in the epaulette shark (Hemiscyllium ocellatum).
Journal of Experimental Zoology, 281, 1–5.
