水族館の水槽で、丸い体をゆらゆら揺らしながら、岩やガラス面にペタッと張りついている魚を見たことはありませんか?
その愛らしい姿から人気を集めるフウセンウオ類は、冷たい海に暮らすダンゴウオ科の魚です。
丸い体に短いひれ、体表を覆う突起、そして腹部にある吸着盤。かわいらしく見えるこれらの特徴には、流れのある海底で体を固定し、身を守りながら暮らすための仕組みが隠されています。
さらに、種類によっては繁殖の際にオスが卵を守ることも知られています。
今回は、フウセンウオ類の独特な体の構造と、卵を守るオスの繁殖行動について紹介します。
冷たい海の小さな魚
フウセンウオ類は、ダンゴウオ科に属する海水魚です。日本で「フウセンウオ」と呼ばれる魚には、近縁の複数種が含まれることがあります。
代表的な種類の一つが、北西太平洋に分布する Eumicrotremus pacificus です。近縁種のPacific spiny lumpsucker(Eumicrotremus orbis)も、オホーツク海、ベーリング海、北海道周辺など、北太平洋の冷たい海に生息しています。
体長は種類によって異なりますが、数cmほどの小型種が多く、大きな種類では十数cmに達します。Pacific spiny lumpsucker(Eumicrotremus orbis)は一般的に数cmほどの小型種で、最大約12.7cmの記録があります。
暮らしている場所も一様ではありません。浅い湾の岩場や海藻の間から、100mを超える海底まで、種類や成長段階によってさまざまな環境を利用します。繁殖期に沿岸の浅い場所へ移動する種類もいますが、時期は地域や種類によって異なります。
食べ物は、小型の甲殻類などを中心に、さまざまな小さな海洋生物を食べます。海底近くでじっと待ち、近づいてきた小さな生き物を捕食します。
丸い体と吸着盤
フウセンウオ類は、一般的な魚が持っている鰾、いわゆる浮き袋を持っていません。
鰾の代わりに、海底近くで暮らすのに適した体つきと行動を身につけています。短いひれで姿勢を調整し、腹部の吸着盤で岩や海藻に体を固定するのです。
浮き袋を使って水中を漂う魚とは異なり、フウセンウオ類は「泳ぎ続ける」よりも「必要な場所に留まる」ことを得意としています。潮の流れがある場所でも、吸着盤を使えば体を安定させられます。
体表に並ぶ突起も大切な特徴です。これらは体を覆う骨質の構造で、捕食者から身を守る働きがあると考えられています。近縁種の研究では、こうした体表の構造が水の流れに影響し、流れの中で体を安定させることにも関係すると考えられています。
丸みを帯びた体つき、短いひれ、体表の突起、鰾を持たない構造。これらが組み合わさり、フウセンウオ類ならではの生活を支えています。
球形に近い体つき、短いひれ、体表の突起、鰾を持たない構造。これらが組み合わさり、フウセンウオ類ならではの生活を支えています。
小さな体に備わる吸着盤
腹部の吸着盤は、もともと腹鰭だった器官が変化したものです。
吸着盤は岩や海藻などの表面に密着し、体を固定します。吸着盤の縁には柔らかな組織があり、凹凸のある表面にも密着しやすい構造になっています。
そのため、吸着盤は単純な「吸盤」ではありません。吸着盤そのものの形状や柔軟な構造によって、水中でも体をしっかり固定できる魚独自の仕組みです。
研究では、ダンゴウオ科などの吸着盤について、形状や微細構造が水流の中での吸着性能に関係することが調べられています。
この仕組みは、水中ロボットや水中作業機器の設計にもヒントを与えています。濡れた岩や凹凸のある表面に器具を固定する技術として、生物の吸着機構が研究されているのです。
卵を守るオス
ダンゴウオ科の繁殖では、オスが卵を守る種類が知られています。
繁殖期になると、魚たちは岩の割れ目やくぼみなど、卵を置きやすい場所を利用します。メスが卵を産み、オスが受精させた後、オスは卵のそばに留まります。
Pacific spiny lumpsucker(Eumicrotremus orbis)でも、オスが卵を守る行動が知られています。オスは卵のそばに留まり、卵を狙う生き物などから守ります。
卵を守る期間は、水温や種類によって変わります。オスは巣の近くから離れにくくなるため、その間は餌を探す時間も少なくなります。
人間の目には、オスが卵を守り続ける姿は健気に映ります。しかし魚にとっては、次の世代を残すために進化してきた重要な繁殖戦略です。
人間との意外な接点
近縁種はサケ養殖で活躍
フウセンウオそのものではありませんが、同じダンゴウオ科のランプフィッシュ(Cyclopterus lumpus)は、北大西洋のサケ養殖でクリーナーフィッシュとして利用されています。
ランプフィッシュは、養殖サケの体表に付着するサケジラミを食べることがあります。サケジラミはエビではなく、カイアシ類に属する寄生性の甲殻類です。
ランプフィッシュの利用は、サケジラミ対策で薬剤の使用を減らすことを目的とした方法の一つです。一方で、魚の健康管理や飼育環境、餌の確保、福祉など、養殖現場で解決すべき課題もあります。
近年の研究では、クリーナーフィッシュの働きは、水温、寄生虫の状態、魚自身の健康状態、養殖環境などによって変わることも分かっています。
小さな体の大きな工夫
フウセンウオ類の体は、広い海を速く泳ぐためにできているわけではありません。
丸い体で海底近くに留まり、腹部の吸着盤で岩や海藻に固定する。体表の突起で身を守り、短いひれで姿勢を調整する。繁殖期には、オスが卵を守り続ける。
それぞれの特徴は小さく見えても、冷たい海底で生きるためには欠かせません。
水族館でフウセンウオを見かけたら、丸い体だけでなく、腹部の吸着盤や体表の突起、ちょこちょこと動くひれにも注目してみてください。
愛らしい「風船」のような姿の中には、流れのある海で体を固定し、捕食者から身を守り、次の世代を残すための、さまざまな仕組みが詰まっています。
まとめ
フウセンウオ類は、丸い体と腹部の吸着盤を使って海底近くで暮らす、独特な体つきを持った魚です。
体表の突起や短いひれも、冷たい海で身を守り、体を安定させることに役立っています。
繁殖では、オスが卵のそばに留まり、外敵から守る種類も知られています。
愛らしい姿の裏側には、海底で生き抜くための巧みな仕組みと、次の世代を残すための繁殖戦略が備わっているのです。

