枝先に止まる鮮やかな赤い鳥。ベニタイランチョウは、北アメリカ南部から中央アメリカ、南アメリカにかけて広く分布するタイランチョウ科の鳥です。
特に目を引くのがオスの姿で、頭から胸、腹にかけて鮮やかな赤色をしています。一方、メスは灰褐色を基調としており、オスとメスでは見た目が大きく異なります。
枝から素早く飛び出して空中の昆虫を捕まえるほか、繁殖期にはオスが空へ舞い上がりながら鳴くディスプレイも見せます。ここでは、ベニタイランチョウの特徴や生息地、食べ物、狩り、鳴き声、繁殖について紹介します。
鮮やかな赤色が目立つ小型の鳥

ベニタイランチョウは、スズメ目タイランチョウ科に属する鳥です。
全長は約12~14cm、体重は約11~15g。体は小さくややずんぐりとしており、枝などに直立するような姿勢で止まります。
オスは赤、メスは灰褐色
成鳥のオスは、頭頂部と胸から腹にかけてが鮮やかな赤色をしています。
目の周囲から後頭部、背中、翼、尾は暗い褐色で、赤い部分との境目がはっきりしています。緑や褐色が多い生息環境の中では、かなり目立つ姿です。
メスは灰褐色を基調とし、胸には細かな縦模様があります。腹の下側には淡い赤色やサーモンピンクが入り、オスより落ち着いた色合いです。
若鳥はメスに似た灰褐色の姿をしており、成長途中のオスでは頭や胸などに赤い羽が混じります。
北アメリカから南アメリカまで広く分布する
ベニタイランチョウは、アメリカ合衆国南西部からメキシコ、中央アメリカを通り、南アメリカの広い範囲に分布しています。
砂漠の低木地、草原、農地、森林の縁、川沿いの林など、比較的開けた環境で暮らします。
密生した森林の奥よりも、木や低木が点在し、周囲を見渡せる場所をよく利用します。低い枝や低木の先端、柵などに止まり、そこから周囲を飛ぶ昆虫を探します。
水辺の植生がある場所でもよく見られ、乾燥した地域では川沿いの林が重要な生活場所になります。
空中で昆虫を捕まえる
ベニタイランチョウの食事は昆虫が中心です。
ハエや甲虫、ハチ、バッタ、コオロギ、チョウなど、さまざまな昆虫を捕らえます。
狩りをするときには、まず見晴らしのよい枝や柵に止まり、周囲を見渡します。
飛んでいる昆虫を見つけると、枝から勢いよく飛び出して空中で捕らえ、そのまま近くの止まり場所へ戻ります。同じ枝から何度も飛び出して狩りを続ける姿もよく見られます。
大きなバッタやチョウなどを捕まえた場合には、枝に叩きつけてから飲み込むこともあります。
ベニタイランチョウが止まりやすい開けた枝は、休憩場所であると同時に、獲物を探すための見張り台でもあります。
オスは空へ舞い上がって求愛する
繁殖期になると、オスは鮮やかな羽色を生かした飛翔ディスプレイを行います。
枝から飛び立ったオスは、周囲の木や低木より高いところまで舞い上がります。細かな羽ばたきと滑空を繰り返しながら飛び、その間に連続した声を出します。
高いところまで上がった赤いオスが空中を飛び回る姿は非常に目立ちます。
オスは縄張りを持ち、ほかのベニタイランチョウが近づくと追い払うこともあります。繁殖期の飛翔や鳴き声は、メスへの求愛だけでなく、周囲のオスに自分の存在を示す役割も持っています。
求愛の際には、オスが捕らえた昆虫をメスへ渡す行動も見られます。
鳴き声はオス同士のやり取りにも使われる
ベニタイランチョウのオスは、短い音を連続させるようなさえずりを聞かせます。
枝に止まった状態でも鳴きますが、繁殖期には空中ディスプレイを行いながら鳴く姿も見られます。
オスの鳴き声を調べた研究では、巣作りが始まった後には、それ以前よりも長い歌を、より高い頻度で歌うことが確認されています。
さらに、ほかのオスの歌を再生する実験では、歌の長さによって反応が変わりました。巣作りが始まった後では、短い歌よりも長い歌を聞いたときに、オスが飛んで反応する回数が増えています。
ベニタイランチョウにとって鳴き声は、繁殖期にオス同士が縄張りをめぐってやり取りするためにも使われています。
メスが小さな巣を作る
繁殖期になると、メスは木の枝に小さな巣を作ります。
巣は浅いカップ状で、小枝や草などを組み合わせ、クモの糸を使って材料を固定します。外側には地衣類が付けられることもあり、木の枝に溶け込むような姿になります。
巣は水平に伸びた枝の分かれ目に作られることが多く、川沿いの木もよく利用されます。
一度に産む卵は2~4個です。
卵は白色からクリーム色で、褐色などの斑点があります。メスが約13~15日間抱卵し、その間にはオスがメスへ食べ物を運びます。
雛が孵化すると、オスとメスの両方が昆虫を運んで育てます。雛は孵化から約14~16日で巣立ちます。
地域によって移動の仕方が異なる
ベニタイランチョウはアメリカ大陸の広い範囲に生息しており、地域によって一年の過ごし方が異なります。
一年を通して同じ地域で暮らす個体群がある一方、季節に合わせて移動する個体群もいます。
北アメリカでも冬になると分布が変化し、南アメリカ南部でも繁殖期とそれ以外の季節で生息する地域が変わります。
広い分布域の中で、それぞれの地域の季節に合わせながら生活しています。
開けた場所で見つけやすい鳥
鮮やかな赤色から熱帯の深い森に暮らす鳥を想像するかもしれませんが、ベニタイランチョウがよく利用するのは開けた環境です。
木の枯れ枝や低木の先端、柵など、周囲を見渡せる場所によく止まります。
そこから昆虫を見つけるたびに飛び出し、再び枝へ戻る行動を繰り返します。
特にオスは赤い体がよく目立つため、生息地では止まり場所と飛び方を手掛かりに見つけることができます。
まとめ
ベニタイランチョウは、北アメリカ南部から中央アメリカ、南アメリカにかけて広く分布するタイランチョウ科の鳥です。
オスは頭や腹部が鮮やかな赤色をしていますが、メスは灰褐色を基調としており、雌雄で見た目が大きく異なります。
食事は昆虫が中心で、枝や柵から獲物を探し、飛び出して空中で捕らえます。
繁殖期にはオスが鳴きながら空へ舞い上がるディスプレイを行います。メスは小枝や草、クモの糸などを使って巣を作り、孵化した雛にはオスとメスの両方が餌を運びます。
鮮やかな赤い羽だけでなく、枝から何度も飛び出して昆虫を捕らえる狩りや、繁殖期の飛翔ディスプレイもベニタイランチョウを特徴づけるものです。
主要参照元
- Cornell Lab of Ornithology, All About Birds「Vermilion Flycatcher」
- Cornell Lab of Ornithology, eBird「Vermilion Flycatcher」
- National Audubon Society「Vermilion Flycatcher」
- Ríos-Chelén, A. A. & Macías Garcia, C. (2007), “Responses of a sub-oscine bird during playback: Effects of different song variants and breeding period”, Behavioural Processes 74: 319–325

