駐車場や歩道を小走りし、立ち止まるたびに長い尾を上下させる白黒の鳥。ハクセキレイは、河川敷だけでなく、駅前、商業施設、住宅地でもよく見られる身近な野鳥です。
人の暮らしに近い場所で目にする機会が多い一方、歩き方や尾を振る理由、夕方に集まって眠る行動には、意外と知られていない面があります。街の中で見つけやすい理由とともに、その暮らしをたどります。
白黒のセキレイを見分けるには顔を見る
学名は Motacilla alba。スズメ目セキレイ科セキレイ属の鳥で、ヨーロッパからアジア、北アフリカまで広く分布します。全長は約20〜21センチ、体重は約20〜30グラムです。長い尾が目を引きますが、体は細身です。
IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストでは、種全体として「低懸念」に分類されています。
日本の市街地や川辺では、ハクセキレイのほかにセグロセキレイやキセキレイも見られます。キセキレイは腹側の黄色が目立つため見分けやすい鳥です。
一方、白黒のハクセキレイとセグロセキレイは、遠くから見るとよく似ています。見分けるときは、顔の白と黒の模様に注目すると分かりやすいでしょう。
ハクセキレイは白い頬と黒い目の線が目印
日本でよく見られるハクセキレイは、白い頬と、目を横切る黒い線が目印です。夏羽の成鳥オスでは背中の黒色も目立ちます。
ただし、メスや冬羽では背中が灰色がかって見えることがあります。若鳥では顔の模様も淡く、成鳥ほどはっきりしません。
ハクセキレイには、地域ごとに羽色や顔の模様が異なる複数の亜種が含まれます。日本で繁殖する中心的な亜種は Motacilla alba lugens です。
日本にも、旅の途中や冬を越すために別の亜種が現れることがあります。そのため、白い頬と黒い目の線だけで、すべての個体を同じように見分けられるわけではありません。
セグロセキレイは黒い頬と白い眉線が特徴
セグロセキレイでは、頬から目の周囲が黒く、目の上に白い眉のような線があります。鳴き声もハクセキレイとは異なり、慣れると声も見分ける手がかりになります。
両種はオスとメスの違いや、同じ種の地域差ではありません。ハクセキレイは Motacilla alba、セグロセキレイは Motacilla grandis という別の種類です。
セグロセキレイは、日本を中心とする東アジアの限られた地域に分布します。川の中州や石の多い河原、水際でよく見られますが、市街地や農地にも現れます。見かけた場所だけで判断するのは難しい鳥です。
両種が交雑した可能性のある個体も、まれに報告されています。ただ、通常の羽色の違いや若鳥の淡い模様が、交雑個体のように見える場合もあります。
「チチン」「チチッ」と聞こえる鳴き声
ハクセキレイは、「チチン」「チチッ」「ピチッ」といった短く鋭い声で鳴きます。飛びながら声を出すことも多く、姿が見えなくても鳴き声で近くにいることに気づく場合があります。
地上を歩いているときや仲間と飛び交うときにもよく鳴きます。繁殖期には、オスが普段より複雑な声を続けて出すこともあります。
セグロセキレイやキセキレイも似たような高い声を出しますが、鳴き方や声の調子には違いがあります。街中でハクセキレイを探すときは、白黒の姿だけでなく、短く響く鳴き声にも注目すると見つけやすくなります。
北日本から本州以南へ広がった繁殖地
現在のハクセキレイは、日本各地で見られます。しかし、日本で子育てをする地域は、20世紀を通じて大きく変わりました。
かつては北日本での繁殖が中心だった
ハクセキレイは、かつては北海道や東北地方を中心に繁殖していましたが、1930年代以降、本州へ繁殖分布を広げました。1970年代以降は関東以西でも繁殖例が増え、現在では九州を含む本州以南の各地で繁殖が確認されています。ただし、地域によって繁殖の多さは異なります。
1960年代から1970年代には、関東地方でも繁殖例が増えました。さらに近畿、中国、四国、九州へと広がり、現在では本州以南の市街地や平野部でも普通に繁殖しています。
ただし、冬に見られることと、その地域で繁殖していることは同じではありません。季節によって移動する個体もいるためです。日本列島には、国内を移動する個体のほか、北方から渡ってくる個体もいます。日本を通過する別の亜種も含まれています。
都市に多いのは開けた地面を利用できるから
ハクセキレイは、背の高い草が密生した場所より、地面を見渡しやすい開けた場所で餌を探します。
工場や商業施設の敷地も、ハクセキレイにとっては移動しやすい場所です。街灯の下や水たまりなどには、小さな虫が集まることがあります。ハクセキレイは広い舗装面を歩きながら、こうした場所を次々に調べます。
道路や造成地、整備された河川敷など、見通しのよい場所が各地に増えたことは、繁殖地が広がった理由の一つとして挙げられています。とはいえ、日本列島を南へ広がった過程を、一つの理由だけで説明することはできません。気候や餌、巣を作れる場所、ほかのセキレイ類との関わりは、地域によって異なります。
跳ねずに歩き、地面の小動物を捕らえる
ハクセキレイの目立つ特徴は、両脚を交互に出して歩くことです。スズメのように両脚をそろえて跳ねる動きとは異なります。
速く移動するときも、細かな足取りで地面を走ります。この歩き方は、街なかで見かけるハクセキレイらしい姿の一つです。
歩きながら虫の動きを探す
主な餌は、昆虫やその幼虫、クモなどの小動物です。水辺では、水生昆虫のほか、小さな甲殻類や軟体動物も食べます。
地上の獲物をついばむだけではありません。飛び立った虫を短く追いかけ、空中で捕らえることもあります。また、植物の種子や、人が落とした食べ物を口にする場合もあります。食べる物は、季節や場所によって変わります。
飛ぶときは波を描くように見える
ハクセキレイは、数回羽ばたいた後に翼を一時的にすぼめる動きを繰り返します。そのため、横から見ると飛ぶ道筋がゆるやかに上下し、波を描くように見えます。この飛び方は「波状飛行」と呼ばれ、遠くにいるセキレイ類を見つける手がかりの一つです。
地面に降りると、すぐに歩き始めることが多くあります。長い尾を上下させながら素早く方向を変え、虫を探します。歩行、短い追跡飛行、再び地面に降りるという流れは、餌を探しているときによく見られます。
尾を振る行動には複数の説明がある
英名の「Wagtail」は、「尾を振る鳥」という意味です。ハクセキレイは歩いているときだけでなく、立ち止まって周囲を見ているときにも尾を上下させます。この動きには、一つだけではない理由が考えられています。
危険を警戒すると尾振りが増える
クリストフ・ランドラーが2006年に発表した研究では、餌を探したり羽づくろいをしたりするハクセキレイを観察し、尾振りと周囲を見回す行動との関係を調べました。
その結果、尾を頻繁に振る個体ほど周囲を警戒する動きも多い傾向が確認されました。このことから、尾振りには自分が周囲を警戒していることを示す働きがある可能性が考えられています。
研究で示された中心的な点は、尾振りの回数と警戒した状態が結びつくことです。そこから、捕食者への合図という説明が成り立つと考えられています。なお、この研究はドイツ北部で行われたもので、日本の亜種ハクセキレイで同じ機能が確認されたわけではありません。
餌探しや姿勢との関係も考えられている
尾を動かす理由としては、地面や植物に潜む虫を動かして見つけやすくする働きなども考えられてきました。ただし、現在のところ一つの理由だけですべての尾振りを説明できるわけではありません。
ハクセキレイは危険が見当たらない場面でも尾を振るため、警戒だけですべてを説明するのは難しいでしょう。一つの動きが、周囲の状況に応じて異なる働きを持つ可能性があります。街で観察すると、速く歩くとき、餌を狙って止まるとき、上空を見上げるときで、尾の動かし方や間隔が変わります。
秋から冬には都市に集団ねぐらを作る
昼間のハクセキレイは、一羽で行動することもあれば、つがいや小さな群れで行動することもあります。繁殖期には巣の周辺を守りますが、繁殖を終えた時期には複数の個体が同じ場所で餌を探すこともあります。
秋から冬にかけては、夕方に一か所へ集まり、まとまって夜を過ごすことがあります。これが集団ねぐらです。
駅や建物に多数が集まることがある
集団ねぐらには、街路樹のほか、橋や高架の構造物、建物の出っ張り、大型看板の裏側などが使われます。駅前や大きな建物の周辺で、日没前に同じ方向へ飛ぶハクセキレイを見かけることもあります。
ねぐらに集まる数は、場所や時期によって大きく異なります。数十羽ほどの場合もあれば、長く使われる大規模な場所では数百羽以上になることもあります。地域によっては、千羽規模が数えられた例もあります。ただし、すべてのねぐらがそれほど大きいわけではありません。
都市のねぐらには複数の利点がある
なぜ特定の場所が繰り返し選ばれるのかについては、周囲の環境や安全性、餌場との位置関係など、複数の条件が関係すると考えられます。
ただし、都市のねぐらがすべて暖かい場所に作られるわけではありません。明るさだけで選ばれるわけでもありません。枝や構造物の形、風の当たり方、人や車の動き、周辺の餌場までの距離など、いくつもの条件が重なって場所が決まります。街路樹の剪定、建物の改修、照明の変化によって、ねぐらが別の場所へ移ることもあります。
餌の量によって「同居相手」を受け入れる
ハクセキレイの行動の変化を示す研究として、イギリスの亜種ニシハクセキレイを調べた、ニコラス・デイヴィスの研究があります。対象となったのは Motacilla alba yarrellii です。
縄張りを持たない個体が防衛に加わる
冬の餌場では、一羽が一定の範囲を守り、入ってきた仲間を追い払うことがあります。しかし、一部の場所では、その持ち主のほかに「衛星個体」と呼ばれる別の一羽が滞在していました。
衛星個体も餌を食べるため、持ち主にとっては餌を取り合う相手です。一方で、別の侵入者が来ると、衛星個体は追い払いに加わります。持ち主にとって衛星個体は、餌を分ける負担と、場所を守る手助けという両方をもたらします。
観察と実験では、餌を得やすい条件では衛星個体が受け入れられ、条件が悪くなると追い出されやすいことが示されました。鳥が数字を計算しているという意味ではありません。餌の得やすさや、入り込んでくる個体の多さに応じて、追い払う行動が変化したと捉えられます。
この研究はイギリスのニシハクセキレイを対象にしたものです。日本で繁殖する亜種について、同じ仕組みが同じ条件で確認された研究ではありません。
巣作りから巣立ちまで
ハクセキレイは、岩や土手のくぼみ、建物のすき間、橋の構造部、資材の間などに巣を作ります。上や周囲がある程度覆われた場所が使われます。人工物をよく利用する鳥ですが、自然の岸壁や樹木の穴に巣を作る場合もあります。
巣には草や毛、羽毛を使う
巣の外側には、枯れ草、細い根、茎、苔などが使われます。内側には、細かな植物片、獣毛、羽毛などが敷かれます。巣を作る場所によっては、ビニール片や糸などの人工物が混じることもあります。一度に産む卵は、一般に4〜6個ほどです。
卵を温める期間は約12〜14日です。ひなはふ化してから約13〜16日で巣立つのが目安ですが、地域や天候、巣ごとに違いがあります。
温暖な地域では、同じ年に2回子育てすることもあります。若鳥は巣立った直後から完全に自立するわけではありません。しばらくは親鳥から餌を受け取りながら、地上で虫を捕らえる方法や、危険を避ける行動を身につけます。
野鳥の寿命は、巣立つ前後に死ぬ個体も含めると短くなります。一方、生き残った個体の中には長く暮らすものもいます。イギリスのニシハクセキレイでは、標識調査で11年以上生存した記録があります。これは確認された長寿例であり、一般的な個体が11年生きるという意味ではありません。
街で観察できる四つのポイント
ハクセキレイは、川辺だけでなく、身近な街の中でも観察できます。姿を見かけたら、次の点に目を向けると行動の違いが見えてきます。
- 顔と背中の模様 ― 白い頬と黒い目の線、背中の色を確認します。季節、年齢、性別、亜種によって色の濃淡は変わります。
- 足の運び方 ― 両脚を交互に出して歩きます。獲物を見つけると急に走ったり、短く飛び上がったりします。
- 尾振りと警戒 ― 普段の尾振りと、上空や周囲を警戒しているときの速さ、回数を見比べることができます。
- 夕方の移動 ― 秋から冬の駅前や大きな建物の周辺では、日没前に同じ方向へ飛ぶ個体を追うと、集団ねぐらが見つかることがあります。
セキレイは縁起のよい鳥としても知られる
セキレイは、日本では古くから夫婦円満や子孫繁栄と結びつけられてきた鳥です。
『日本書紀』には、イザナギとイザナミがセキレイの動きを見て夫婦の営みを知ったという伝承があります。この伝承から、セキレイは「嫁教鳥(とつぎおしえどり)」などとも呼ばれてきました。
こうした伝承を背景に、現在ではハクセキレイも「縁起のよい鳥」「幸運を呼ぶ鳥」などと紹介されることがあります。ただし、『日本書紀』に登場するのはハクセキレイと特定された鳥ではなく、あくまで「セキレイ」です。
まとめ
ハクセキレイは白い頬と黒い目の線が目印で、セグロセキレイとは別の種類です。
開けた地面を歩き、虫やクモなどの小動物を探して食べます。都市では駐車場や道路のほか、植え込み、水たまり、排水溝の周辺も利用します。
尾振りは警戒した状態と関係しますが、餌探しや姿勢の調整など複数の理由が考えられています。秋から冬には、駅や建物、街路樹などに集まり、集団で夜を過ごすことがあります。
日本で子育てをする地域は、かつての北日本中心から本州以南へ広がりました。
長い尾を振りながら路面を歩く姿は、ハクセキレイが川辺だけでなく、人の作った街も生活の場として使っていることをよく示しています。
主要参考文献・参照ソース
- BirdLife International. (2018). Motacilla alba. The IUCN Red List of Threatened Species 2018: e.T22718358A132116991. https://www.iucnredlist.org/species/22718358/132116991
- 山階鳥類研究所. 日本産鳥類・鳥類標識調査に関する資料. https://www.yamashina.or.jp/
- 日本鳥学会. 『日本鳥類目録 改訂第7版』(2012)および『日本鳥類目録 改訂第8版』(2024). https://osj.org/
- Davies, N. B. & Houston, A. I. (1981). “Owners and satellites: The economics of territory defence in the Pied Wagtail, Motacilla alba.” Journal of Animal Ecology, 50, 157–180.
- Randler, C. (2006). Is tail wagging in white wagtails, Motacilla alba, an honest signal of vigilance? Animal Behaviour, 71(5), 1089–1093. https://doi.org/10.1016/j.anbehav.2005.07.026
- British Trust for Ornithology. BirdFacts: Pied/White Wagtail (Motacilla alba). https://www.bto.org/understanding-birds/birdfacts/pied-wagtail
- 環境省 自然環境局. モニタリングサイト1000・鳥類に関する資料. https://www.env.go.jp/nature/

