鮮やかなオレンジ色の羽、白い眉のような模様、紫色を帯びた胸。オシドリのオスは、日本で見られるカモの中でも特に華やかな姿をしています。一方、メスは灰褐色を基調とした落ち着いた色で、雌雄の見た目は大きく異なります。
「おしどり夫婦」という言葉でもよく知られていますが、オシドリの暮らしは水辺で寄り添っているだけではありません。森林に囲まれた池や川を好み、木の穴に巣を作り、秋から冬にはドングリをよく食べます。
ここでは、オシドリの特徴や生息地、食べ物、繁殖、「おしどり夫婦」という言葉との関係について紹介します。
オシドリは東アジアに暮らすカモ
オシドリの学名は Aix galericulata、英名は Mandarin Duck です。カモ目カモ科に属し、北アメリカに暮らすアメリカオシと近い仲間です。
自然分布の中心は東アジアで、日本のほか、中国、ロシア極東、朝鮮半島などに生息しています。北方で繁殖する個体の中には、秋になると南へ移動して冬を過ごすものもいます。
日本では北海道、本州、九州などで繁殖が確認されています。冬には北方や大陸から渡ってくる個体も加わるため、本州中部以南では数が増える地域があります。
ヨーロッパにもオシドリが生息していますが、本来の分布ではありません。飼育されていた個体が野外で繁殖するようになり、イギリスなどでは定着した個体群が見られます。
森林に囲まれた水辺を好む
オシドリは湖や池、ダム湖、河川、渓流などに暮らします。特に、岸辺まで木が茂り、枝が水面へ張り出しているような場所をよく利用します。
中国地方のダム湖で行われた研究では、岸辺に樹木が多い場所ほどオシドリの密度が高くなる傾向が確認されました。水面を覆う枝や植物は、休んだり身を隠したりする場所になります。
繁殖するときにも森林は重要です。オシドリは木の穴を巣として使うため、水辺と森林が近い環境が暮らしに深く関わっています。
オスだけが鮮やかな羽を持つ
オシドリは全長約45cmのカモです。繁殖羽のオスは赤いくちばし、白い眉のような模様、紫色の胸、オレンジ色の頬など、さまざまな色の羽を持っています。
特に目立つのが、背中の左右に立ち上がるオレンジ色の大きな羽です。イチョウの葉に似ていることから「銀杏羽」と呼ばれ、オシドリのオスを象徴する特徴になっています。
メスは全体に灰褐色で、目の周りには白い輪があり、そこから後方へ白い線が伸びています。オスほど目立つ色ではなく、水辺や林の中では周囲になじみやすい姿をしています。
夏になるとオスも地味な姿になる
鮮やかなオスも、一年中同じ羽をしているわけではありません。繁殖を終えると羽が生え替わり、夏にはメスに似た褐色の姿になります。
この時期の羽は「エクリプス」と呼ばれ、特徴的な銀杏羽もなくなります。秋になると再び鮮やかな羽へ生え替わり、冬から春にかけて求愛する姿が見られるようになります。
地味な姿になったオスとメスはよく似ていますが、くちばしの色などを見ると見分ける手がかりがあります。
ドングリをよく食べる
オシドリは雑食性ですが、植物質の食べ物を多く利用します。特によく知られているのが、シイやカシ、ナラなどのドングリです。
秋から冬には森林の地面や水辺でドングリを拾い、そのまま飲み込みます。このほか、植物の種子や果実、水生植物なども食べます。
昆虫や巻貝などの小動物を利用することもあり、食べるものは季節によって変わります。日中は木陰のある水辺で休み、夕方から夜にかけて餌を探しに移動することもあります。
木の穴に巣を作る
オシドリの繁殖で特徴的なのが、木の穴を巣として利用することです。水辺に近い大木の樹洞などを選び、メスが中に羽毛を敷いて巣を整えます。
自分で木に穴を掘ることはできないため、自然にできた空洞などを利用します。人が設置した巣箱で繁殖することもあります。
一度に産む卵は7〜12個ほどで、卵を温めるのはメスです。約28〜30日の抱卵を経てヒナがかえります。
ヒナは高い木の穴から飛び降りる
オシドリのヒナは、卵からかえた時点ですでに羽毛に覆われ、自分の足で動くことができます。飛ぶことはできませんが、巣の中で長く育つわけではありません。
母親が巣の外へ出ると、ヒナも樹洞の入口まで上がり、そこから地面へ飛び降ります。巣が高い場所にある場合でも、小さく軽い体で着地し、その後は母親について水辺へ向かいます。
水辺へ移動したヒナは自分でも食べ物を探しながら成長します。小鳥のように、親が巣へ何度も餌を運んで育てる方法とは大きく異なります。
オスは抱卵中のメスに付き添うことがある
繁殖前から抱卵の時期にかけて、オスとメスが一緒に行動することがあります。
北海道で行われた観察では、抱卵中のメスが朝や夕方に巣を離れて食事をしたあと、オスが巣の近くまで付き添う行動が確認されました。ただし、毎回同行するわけではなく、繁殖が進むにつれてこうした付き添いも見られなくなります。
ヒナが巣を出たあとの子育ては、主にメスが担当します。オスは親子と離れ、ほかのオスと一緒に羽が生え替わる時期を過ごします。
「おしどり夫婦」と実際のオシドリ
仲のよい夫婦を表す「おしどり夫婦」という言葉は、オシドリの雌雄が寄り添う姿と結びついてきました。中国や日本では古くから夫婦愛の象徴として扱われ、絵画や工芸品にもたびたび登場します。
実際のオシドリも冬から繁殖期にかけてペアで行動します。同じ組み合わせが複数の繁殖期に続く場合もありますが、必ず生涯同じ相手と暮らすわけではありません。
また、卵を温め、ヒナを連れて生活するのは主にメスです。「おしどり夫婦」という言葉は、オシドリの子育てをそのまま表したものというより、雌雄が並ぶ姿から生まれた文化的なイメージとして親しまれています。
冬には群れで暮らす
繁殖期にはつがいや親子で見られるオシドリも、秋から冬になると群れを作ります。森林に囲まれた湖やダム湖などでは、数十羽から数百羽がまとまっていることがあります。
日中は岸辺の木陰や、水面へ張り出した枝の近くで休むことが多く、広い水面の中央へ出てこない場合もあります。そのため、多くのオシドリがいても、遠くからは気づきにくいことがあります。
夕方になると群れが動き出し、ドングリなどの餌を求めて別の場所へ移動することもあります。
日本では2026年にレッドリストから外れた
世界的には、オシドリはIUCNレッドリストで「低懸念(LC)」に分類されています。
日本では長く環境省レッドリストの「情報不足(DD)」に掲載されていました。これは絶滅の危険が高いという意味ではなく、評価するための情報が十分ではなかったためです。
2026年に公表された第5次レッドリストでは、オシドリは掲載対象から外れました。環境省によると、国内の越冬個体数は最近20年間、約2万5,000〜3万羽で大きな変化がなく、繁殖期に確認された地域も増えていました。
国内全体では以前より生息状況を把握できるようになり、現時点で絶滅の危険は小さいと判断されています。ただし、生息状況には地域差があり、樹洞のある森林や水辺の環境はオシドリが暮らすうえで重要です。
まとめ
- オシドリは、日本、中国、ロシア極東など東アジアに分布するカモです。
- オスは銀杏羽をはじめとする鮮やかな羽を持ち、メスは灰褐色をしています。
- 繁殖後のオスは羽が生え替わり、夏には地味な姿になります。
- 森林に囲まれた湖や池、河川などをよく利用します。
- ドングリや種子などの植物質を中心に、昆虫なども食べます。
- 木の穴に巣を作り、メスが約28〜30日間卵を温めます。
- ヒナはふ化すると木の穴から飛び降り、母親について水辺へ移動します。
- オスが抱卵中のメスに付き添うことはありますが、ヒナの世話は主にメスが行います。
- 「おしどり夫婦」という言葉で知られますが、必ず生涯同じ相手と暮らすわけではありません。
- 2026年の環境省第5次レッドリストでは掲載対象から外れました。
鮮やかなオスの姿で知られるオシドリですが、その暮らしには水辺だけでなく森林も欠かせません。ドングリを食べる森、巣を作れる木の穴、身を隠して休める岸辺を行き来しながら生活しています。
「おしどり夫婦」という言葉とは少し違った一面もありますが、雌雄で過ごす冬から繁殖期、木の上で始まる子育てなど、独特な暮らしを持つカモです。
📚主要参考文献・参照ソース
- 環境省「第5次レッドリスト(鳥類)」2026年
- BirdLife International / IUCN Red List: Aix galericulata
- 東京都建設局「オシドリ」
- British Trust for Ornithology, BirdFacts: Mandarin Duck
- Mahaulpatha, D. et al. (2001). “Factors affecting mandarin ducks (Aix galericulata) wintering at dam lakes in the Chugoku district.” Ecology and Civil Engineering, 4(2), 147–152.
- 新田啓子 (2015).「オシドリ雄の雌への付き添い行動」『山階鳥類学雑誌』46(2), 141–145.

