アメンボとは?水に浮く仕組みや名前の由来、生態を解説

水生昆虫

池や水田、流れの穏やかな川などで、水面をすいすいと滑るアメンボ。細長い脚で水の上に立ち、そのまま素早く移動する姿は身近ですが、よく考えると不思議な昆虫です。

アメンボが水に浮けるのは、単に体が軽いからではありません。水の表面張力と、水を強くはじく脚の構造を利用しています。また、水面に落ちた昆虫を捕らえる肉食性の昆虫で、種類によっては飛んで別の水場へ移動することもあります。

ここでは、アメンボという名前の由来から、水に浮く仕組み、食べ物、繁殖、飛翔、海で暮らす仲間まで紹介します。


アメンボとは

アメンボは、カメムシ目アメンボ科に分類される昆虫です。日本では池や沼、水田、水路、川の淀み、一時的な水たまりなど、さまざまな水辺で見ることができます。

体は細長く、前脚に比べて中脚と後脚が非常に長いのが特徴です。長い脚を水面へ広げることで体重を分散し、水面に沈まずに生活しています。

日本で身近なナミアメンボは体長1〜1.6cmほどです。英語では「water strider」や「pond skater」などと呼ばれ、水面を滑るように動く姿を表した名前になっています。

アメンボという名前の由来

「アメンボ」の「アメ」は、雨ではなく「飴」に由来するといわれています。

アメンボを捕まえると、焦げた飴のように感じられる独特のにおいを出すことがあります。このにおいから「飴坊(あめんぼう)」と呼ばれ、それがアメンボになったという説がよく知られています。

アメンボはカメムシの仲間で、においを出す腺を持っています。ただし、本物の飴のような甘い香りという意味ではなく、昔の人がその独特なにおいを飴に例えたものです。

アメンボはなぜ水に浮く?

アメンボが水面に立てる大きな理由が、水の「表面張力」です。

水の表面では水分子同士が引き合い、表面をできるだけ小さく保とうとする力が働いています。葉の上の水滴が丸くなったり、コップいっぱいに注いだ水が少し盛り上がったりするのも、この表面張力によるものです。

アメンボが脚を水面に置くと、水面は破れず、脚の下に小さなくぼみができます。このくぼんだ水面から受ける力によって、アメンボの体が支えられています。

ただし、表面張力があるだけでは十分ではありません。アメンボ自身の脚にも、水面で生活するための仕組みがあります。

脚に生えた細かな毛が水をはじく

アメンボの脚を拡大すると、非常に細かな毛がびっしりと生えています。この毛にはさらに細かな溝があり、水が脚の表面へ入り込みにくい構造になっています。

そのため、脚は非常に強い撥水性を持ち、水面を押しても簡単には濡れません。長い脚で体重を広い範囲へ分散しながら、表面張力を利用して体を支えています。

以前は、脚の表面にあるワックス状の物質によって水をはじくという説明がよく使われていました。その後の詳しい観察から、脚を覆う細かな毛とその表面構造が、強い撥水性を生み出すうえで特に重要であることが分かっています。

アメンボが水面に立てるのは、体の軽さだけではなく、長い脚、細かな毛、水の表面張力が組み合わさった結果です。

水面をどうやって進んでいる?

アメンボは長い中脚を大きく動かし、水を後ろへ押すことで前へ進みます。見た目はスケートのように滑っていますが、実際にはボートのオールをこぐような動きです。

2003年に発表された研究では、高速度撮影によってアメンボの脚の動きと水の流れが詳しく調べられました。その結果、中脚で水をかいたときに水中へ渦が生まれ、その渦へ運動量を伝えることが前進する力の大きな部分を担っていることが分かりました。

後脚は体を支えたり進行方向を調整したりする役割を持ち、短い前脚は獲物を捕らえるときにも使われます。水面を移動するために、それぞれの脚が違った役割を担っています。

洗剤が入った水では浮きにくくなる

水へ洗剤を加えると、表面張力が大きく低下します。そのため、通常の水ならアメンボを支えられる水面でも、洗剤が混ざると同じようには支えられなくなります。

さらに、界面活性剤によって脚が濡れやすくなり、細かな毛による撥水性も十分に働かなくなります。条件によっては水面にとどまれず、沈んでしまうことがあります。

「脚についた油が洗剤で落ちるから沈む」という説明だけではなく、現在は表面張力の低下と脚の撥水構造の働きが失われることが重要だと考えられています。

アメンボは昆虫を食べる肉食性

アメンボは水草や藻を食べているようにも見えますが、基本的には肉食性です。水面に落ちたハエや蚊などの小さな昆虫を捕らえて食べます。

昆虫が水へ落ちてもがくと、水面に細かな波や振動が生じます。アメンボは脚にある感覚器官でこの振動をとらえ、発生した場所へ近づいていきます。

獲物へ近づくと前脚で押さえ、針のような口を刺して体液を吸います。カメムシやセミなどと同じカメムシ目らしい食べ方です。

水面はアメンボにとって、歩くための地面であると同時に、餌を探すための場所でもあります。

水面の振動でコミュニケーションする

アメンボが感じ取る水面の振動は、餌を探すためだけに使われているわけではありません。同じ種類の仲間とのやり取りにも利用されています。

種類によっては脚などを動かして水面に波を作り、求愛や縄張りに関わる合図を送ります。アメンボは水面を伝わる振動を感じ取る感覚器官を脚に持ち、波の方向や性質を読み取ることができます。

人間には静かな水面に見えていても、アメンボにとっては餌や仲間の動きによってさまざまな情報が行き交う場所なのです。

アメンボは飛ぶこともできる

普段は水面ばかり移動しているため目立ちませんが、アメンボには翅を持ち、飛翔できるものもいます。

日本で身近なナミアメンボでは、十分に発達した翅を持つ長翅型と、翅が短い短翅型が知られています。長翅型は飛んで別の水場へ移動することができ、水場が干上がったときや、季節の変化に伴う移動にも飛翔が利用されます。

翅の発達の仕方は種類や個体によって異なります。同じアメンボ科でも、いつでも同じように飛べるわけではありません。

ナミアメンボでは秋になると長翅型が増え、成虫が水辺を離れて地上の越冬場所へ移動し、翌春に再び水面へ戻ることも知られています。

卵から幼虫、そして成虫へ

アメンボはチョウやカブトムシのように蛹になる昆虫ではありません。卵から孵化すると、成虫をそのまま小さくしたような幼虫が現れます。

幼虫も水面で生活し、小さな昆虫などを捕らえながら成長します。脱皮を繰り返すたびに体が大きくなり、最後の脱皮を終えると翅を持った成虫になります。

ナミアメンボでは地域によって一年に複数世代が生まれます。冬は成虫の状態で水辺を離れて越す個体が多く、春になると再び池や水田などへ現れて繁殖します。

日本で見られるアメンボの種類

日本には多くのアメンボ科の昆虫が生息しています。もっとも身近な種類のひとつがナミアメンボで、北海道から沖縄まで広く分布し、池、水田、川、水路、一時的な水たまりなどさまざまな環境で見られます。

ナミアメンボ

一般に「アメンボ」と聞いて思い浮かべる姿に近い種類です。体長は約11〜16mmで、水田やため池だけでなく、川や小さな水たまりなどにも現れます。

長翅型と短翅型があり、季節や環境によって翅の発達した個体が見られます。

オオアメンボ

名前の通り大型のアメンボです。非常に長い脚を持ち、川や池などの水面を大きく滑るように移動します。

ヒメアメンボ

ナミアメンボより小型で、池や水田、湿地などで見られます。小さいものの、長い脚で水面を移動する基本的な姿はほかのアメンボとよく似ています。

シマアメンボ

黒と白を基調とした模様が目立つ小型のアメンボです。池のような止まった水だけでなく、湧き水や小川など流れのある場所でも見られます。

種類によって好む水辺が異なるため、同じ地域でも環境が変わると見られるアメンボも変わります。

海で暮らすアメンボもいる

アメンボの仲間には、海面を生活場所にするものもいます。アメンボ科ウミアメンボ属の仲間は、熱帯や亜熱帯を中心とした海に分布しています。

海洋性のアメンボの多くは沿岸やマングローブ、サンゴ礁周辺などで生活しますが、ウミアメンボ属のうち5種は陸地から遠く離れた外洋にまで進出しています。

海面で小さな動物などを食べ、漂流物などを産卵場所として利用します。昆虫の大部分が陸上や淡水域で生活している中、外洋そのものを生活場所にしているウミアメンボは珍しい存在です。

日本周辺にも複数の海洋性アメンボが知られています。

水面を歩く仕組みはロボット研究にも利用される

アメンボの脚の構造や移動方法は、生物の研究だけでなく工学分野でも注目されています。

軽い体を水面に支えながら、脚を大きく動かして高速で移動する仕組みは、小型の水上ロボットを開発する際のヒントになります。実際にアメンボの脚の動きや撥水構造を参考にしたロボットや人工表面の研究が行われています。

身近な水辺で見られる小さな昆虫ですが、その体には水面という特殊な環境を利用するための仕組みがいくつも備わっています。

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まとめ

アメンボは、水面での生活に適応したカメムシの仲間です。

  • 「アメンボ」は焦げた飴のようなにおいに由来するという説がある
  • 水の表面張力を利用して水面に立つ
  • 脚には水を強くはじく非常に細かな毛が生えている
  • 中脚を動かして水中へ渦を作りながら前進する
  • 水面に落ちた昆虫などを捕らえて食べる
  • 水面を伝わる振動から餌や仲間の動きを感じ取る
  • ナミアメンボには長翅型と短翅型がいる
  • 幼虫も水面で暮らし、脱皮を繰り返して成虫になる
  • 日本にはナミアメンボ、オオアメンボ、ヒメアメンボなどがいる
  • 外洋で一生を過ごすウミアメンボも存在する

水面を何気なく滑っているように見えるアメンボですが、脚の微細な構造、水の表面張力、振動を感じ取る能力などを組み合わせながら生活しています。池や水田など身近な場所で、その水上生活を観察できる昆虫です。

主要参照元

  • 『改訂新版 世界大百科事典』「アメンボ」
  • Hu, D. L., Chan, B. & Bush, J. W. M. (2003) “The hydrodynamics of water strider locomotion”, Nature
  • Gao, X. & Jiang, L. (2004) “Water-repellent legs of water striders”, Nature
  • Ma, J. Z. et al. (2020) “Interfacial phenomena of water striders on water surfaces: a review from biology to biomechanics”, Zoological Research
  • 東京大学総合研究博物館「大海原に生きる昆虫たち―海洋性アメンボの標本」
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