カイコガを詳しく解説|クワコとの違い・繭・絹・飼育方法

白くふっくらとした幼虫が桑の葉を食べ、やがて糸を吐いて繭を作るカイコ。日本では古くから養蚕によって飼育され、その繭から作られる絹は、衣服をはじめさまざまな用途に使われてきました。

一般には幼虫を「カイコ」と呼びますが、この昆虫の標準和名は「カイコガ」です。数千年にわたって人間に飼育されてきた家畜昆虫で、現在のカイコガは野生のガとはかなり違った特徴を持っています。

この記事では、カイコガの特徴や祖先、桑を食べて育つ幼虫の成長、繭と絹のしくみ、成虫の暮らし、人間との関わり、そして飼育方法を紹介します。


カイコガとは

カイコガは、チョウ目カイコガ科に分類される昆虫です。標準和名はカイコガですが、一般には幼虫を中心に「カイコ」と呼ばれています。

カイコガは、野生の昆虫をそのまま飼っているわけではありません。人間が長い年月をかけて飼育し、品種改良を重ねてきた家畜昆虫です。

祖先と考えられているのは、現在も東アジアに生息しているクワコです。カイコガは約5000年前に中国でクワコから家畜化されたとされています。

その後、大きな繭を作る個体や、質のよい糸をたくさん作る個体が人間によって選ばれ、現在までに数多くの品種が生まれました。

人間の飼育に強く依存している昆虫

長い家畜化を経て、現在のカイコガは祖先のクワコとはかなり違った暮らし方をするようになりました。

幼虫はあまり活発に動き回りません。餌がなくなっても、遠くまで新しい桑を探しに行くことはありません。

成虫には翅がありますが、一般的なカイコガは飛べません。翅を羽ばたかせることはあっても、野生のガのように空を飛び回って餌場や繁殖相手を探すことはできないのです。

現在のカイコガは、人間が餌と飼育場所を用意してくれる環境にすっかり適応しています。そのため、野外で人の手を離れたまま、安定して世代を重ねていくのは難しい昆虫です。

カイコは桑の葉を食べて育つ

卵から孵化した幼虫は、主に桑の葉を食べて育ちます。孵化したばかりのころはとても小さいものの、大量の桑を食べてぐんぐん大きくなります。

通常、幼虫は成長の間に4回脱皮し、1齢から5齢まで育ちます。「齢」とは、ある脱皮から次の脱皮までの成長段階を表す言葉です。

飼育条件によって多少前後しますが、幼虫の期間はおよそ3〜4週間です。農研機構では、孵化から約25日で体重が約1万倍になった例が紹介されています。この短い期間に大量の桑を食べ、繭を作るのに必要な栄養を蓄えていくのです。

脱皮前には「眠」に入る

幼虫は、成長するたびに脱皮します。

脱皮が近づくと、それまで盛んに桑を食べていたカイコが食事をやめ、頭を少し持ち上げたまま、ほとんど動かなくなります。この時期を「眠」といいます。

眠に入ったカイコは、しばらくすると古い皮を脱いで、ひと回り大きな姿になります。その後、再び桑を食べ始めます。

こうして4回の脱皮を繰り返して最後の5齢幼虫になると、体が大きくなるだけでなく、繭の糸を作る絹糸腺も急速に発達します。

生の桑葉がなくても人工飼料で飼育できる

カイコといえば桑の葉を食べる姿がよく知られていますが、現在は人工飼料を使った飼育もできます。

養蚕で使われる人工飼料は、乾燥させた桑葉の粉末を中心に、デンプンや大豆粉末、ビタミンなどを配合したものです。

特に、小さな1〜3齢の幼虫では人工飼料が広く使われています。人工飼料だけで幼虫期を通して育てる方法もあります。

そのため、生の桑葉が手に入りにくい季節でも、計画的にカイコを飼育することが可能です。

幼虫はやがて桑を食べなくなる

5齢まで成長した幼虫は、やがて桑を食べる量が減っていきます。

十分に成長し、繭を作る準備が整った幼虫を「熟蚕」といいます。熟蚕は餌を食べなくなり、それまでより活発に動いて、繭を作るのに適した場所を探し始めます。

養蚕では、この時期のカイコを「蔟」という道具に移します。蔟には小さな区画がいくつも並んでいて、カイコはその中に入り込み、糸を吐いて自分の体を包む繭を作ります。カイコを蔟に移す作業は「上蔟」と呼ばれます。

カイコはなぜ繭を作るのか

カイコが糸を吐くのは、人間のために絹を作っているからではありません。繭は、幼虫が蛹に変わるときに、自分の体を包んで守るためのものです。

熟蚕は頭を何度も動かしながら糸を吐き、自分の周りに少しずつ糸を重ねていきます。最初は隙間だらけですが、さらに大量の糸を吐き続けるうちに、外から中が見えないほど厚い繭ができあがります。

糸を吐き始めてから繭の形が整うまでには、数日かかります。

ひとつの繭には1200mを超える糸が使われる

カイコの繭には、非常に長い糸が使われています。品種などによって差はありますが、1匹のカイコが1200m以上もの繭糸を吐くこともあります。

繭は、短い糸をいくつもつなぎ合わせたものではなく、基本的には1本の非常に長い繭糸でできています。小さな幼虫が、1kmをはるかに超える長さの糸を体の中で作り出しているのです。

絹の材料を作る絹糸腺

カイコの体内には、「絹糸腺」という細長い器官があります。ここで、繭糸の材料になるタンパク質が大量に作られます。5齢幼虫になると絹糸腺は大きく発達し、繭を作る直前には、体の中でとても目立つ器官になります。

カイコが吐く繭糸は、主にフィブロインとセリシンというタンパク質でできています。中心部分を作っているのがフィブロインで、その周りをセリシンが覆っています。

セリシンには糸同士をくっつける働きがあり、繭を作るときに役立ちます。繭から取り出した生糸にはセリシンが残っていますが、その後の精練でセリシンを取り除くと、フィブロインを主体とした、絹ならではの滑らかな手触りと光沢が現れます。

繭の中で蛹になる

繭を完成させたカイコは、その中で蛹になります。

カイコガは、卵、幼虫、蛹、成虫と、大きく姿を変えながら成長する「完全変態」の昆虫です。繭の中で幼虫の体が蛹へと変わり、さらにその内部で成虫の体が作られていきます。

繁殖用に残した繭では、繭を作り始めてからおよそ2週間ほどで成虫が現れます。実際の日数は、品種や温度などによって変わります。

絹を取る繭からは成虫を出さない

絹を生産するときは、すべてのカイコを成虫まで育てるわけではありません。

成虫は繭から出るとき、繭の一部を破って外へ出ます。すると、長くつながっていた繭糸が切れてしまいます。そのため、製糸に使う繭は、蛹の段階で乾燥させて長期保存できる状態にしてから、糸を取ります。

一方、次の世代の卵を取るためのカイコは、成虫になるまで育てます。養蚕では、絹を生産するカイコと繁殖に使うカイコとで、繭の扱い方が異なるのです。

成虫は餌を食べない

幼虫のころは大量の桑を食べていたカイコも、成虫になると何も食べません。

成虫は、幼虫のときに蓄えた栄養を使って活動し、主に交尾と産卵を行います。成虫の寿命はおよそ1週間です。羽化するとまもなく繁殖行動を始め、交尾を終えたメスは産卵します。

1匹のメスが産む卵は、500個前後になることもあります。産卵を終えた成虫は、やがて寿命を迎えます。

オスはメスの匂いを頼りに近づく

成虫になると、オスとメスの行動には違いが見られます。

メスは性フェロモンを放出し、オスは大きな触角でその匂いを感じ取ります。カイコガの代表的な性フェロモンが「ボンビコール」です。

オスはボンビコールを感知すると、活発に翅を動かしながら歩いて、メスに近づいていきます。

カイコガは飛べませんが、性フェロモンを使うことで、近くにいる繁殖相手を見つけることができます。

卵で次の世代へつながる

メスが産む卵は、非常に小さくて丸みを帯びた形をしています。

カイコには、発生の途中で成長を一時的に止める「休眠卵」を作る系統があります。この卵は、休眠状態を利用して次の飼育時期まで保存できます。一方で、休眠しない卵を産む系統もあります。

現在の養蚕では、温度などを管理して孵化の時期を調整しているため、必要な時期に合わせて計画的に飼育できます。

家庭で次の世代まで育てたい場合は、卵の休眠性や管理方法が品種によって違うので、卵を入手した施設や販売元の方法に従うのが確実です。

カイコガとクワコの違い

カイコガの祖先と考えられているのがクワコです。クワコは、日本を含む東アジアに今も生息する野生のガで、幼虫は桑の葉を食べて育ちます。

カイコガとクワコは近縁ですが、外見や行動には大きな違いがあります。カイコガの成虫は白っぽいものが多いのに対し、クワコは褐色を基調とした、目立ちにくい体色をしています。

また、クワコの成虫は飛ぶことができ、野外で自分から繁殖相手を探します。幼虫も、カイコより活発に動きます。

人間の管理下で暮らすカイコガと、野外で暮らすクワコ。数千年にわたる家畜化によって、両者の暮らし方には大きな違いが生まれました。

カイコガと人間の長い関係

カイコガと人間との関係は、約5000年前までさかのぼると考えられています。中国で始まった養蚕は、その後さまざまな地域に広がりました。

繭から取れる絹は、美しい光沢と滑らかな手触りをもつ繊維として、古くから珍重されてきました。

日本でも、養蚕と製糸は長い歴史を持っています。特に明治時代には、生糸が日本を代表する輸出品となり、外貨を稼ぐ重要な産業として近代化を支えました。

その象徴的な施設のひとつが、現在は世界遺産となっている富岡製糸場です。

現在では養蚕農家の数は大きく減りましたが、群馬県をはじめとする地域で、カイコの飼育や品種の維持、生糸の生産が続けられています。

現在は研究にも利用されている

カイコガは、絹を作るだけの昆虫ではありません。飼育しやすく、卵から成虫までの成長を管理しやすいことから、昆虫の遺伝や生理を調べる研究にも利用されてきました。

近年は、遺伝子組換え技術を使って、通常とは異なる性質をもつシルクを作る研究も進んでいます。たとえば農研機構では、緑色や青色などの蛍光を示すシルクを作るカイコが開発されました。

また、カイコを使って、医薬品に利用できるタンパク質を生産する研究も進められています。

数千年前から人間に利用されてきたカイコですが、現在も新しい用途が生み出され続けています。

カイコの飼育方法

カイコは家庭でも飼育できます。人間の管理に強く適応した昆虫なので、餌と清潔な飼育場所を用意すれば、幼虫から繭、成虫までの変化を観察できます。

飼育容器

カイコの幼虫はそれほど活発に動き回らないため、プラスチックケースやトレー、箱などで飼育できます。

幼虫が小さいうちは広い場所は必要ありませんが、成長すると体が大きくなり、桑を食べる量も急激に増えます。たくさん飼う場合は、成長に合わせて飼育面積を広げましょう。

ケースの中には、ふんや食べ残しの桑がたまります。汚れた部分は取り除き、清潔な状態を保ちます。

特に小さな幼虫は病気の影響を受けやすいので、蒸れや極端な高温を避け、飼育場所を清潔にしておくことが大切です。

餌は桑の葉か人工飼料

家庭で飼う場合の基本の餌は、桑の葉です。食べる量に合わせて、新鮮な桑を与えます。

小さな幼虫には、柔らかい葉を細かくして与えると食べやすくなります。成長した幼虫は、大きな葉をそのまま食べられます。

農薬が散布されている可能性のある桑は避けてください。

桑を安定して確保できない場合は、市販のカイコ用人工飼料を利用できます。人工飼料なら桑の生育時期に左右されにくく、季節を問わず飼育しやすくなります。

餌を食べなくても、脱皮前なら慌てない

飼育中に、カイコが突然桑を食べなくなり、動かなくなることがあります。脱皮前の「眠」であれば、正常な成長の過程です。

この時期は、無理に触ったり体を動かしたりせず、そのまま脱皮を待ちましょう。脱皮が終われば、再び動き出して桑を食べるようになります。

ただし、ほかの個体は元気に食べているのに1匹だけ長期間動かない場合や、体色がおかしい場合は、病気や衰弱の可能性もあります。

5齢になると大量の桑が必要になる

カイコが食べる量は、成長するほど増えていきます。特に5齢幼虫になると食欲が非常に旺盛になり、たくさん飼っている場合は大量の桑が必要です。

飼い始める前に、最後まで十分な量の桑を用意できるかを確認しておくと安心です。

桑の確保が難しそうなら、途中で餌がなくならないよう、人工飼料を準備しておく方法もあります。

繭を作る場所を用意する

成長を終えたカイコは桑を食べなくなり、繭を作る場所を探して動き始めます。

この時期になったら、仕切りのある箱や、厚紙を格子状に組んだものなどを用意しましょう。カイコが1匹ずつ入れる空間を作ってあげると、それぞれがそこで繭を作りやすくなります。

本格的な養蚕では「蔟」という専用の道具を使いますが、少数を家庭で飼う程度なら、繭を固定できる適度な大きさの区画を作れば観察できます。

成虫まで育てる場合

完成した繭をそのまま置いておけば、中でカイコは蛹になります。条件が整えば、2週間ほどで成虫が繭から出てきます。

成虫に餌を与える必要はありません。オスとメスがそろっていれば交尾し、メスが卵を産むこともあります。

卵から幼虫、蛹、成虫まで、完全変態のすべての段階を比較的簡単に観察できることも、カイコ飼育の魅力のひとつです。

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まとめ

カイコガは、数千年にわたって人間とともに暮らしてきた家畜昆虫です。

  • 標準和名はカイコガで、「カイコ」は本来、幼虫を指す名前
  • 約5000年前に中国でクワコから家畜化されたと考えられている
  • 幼虫は主に桑の葉を食べる
  • 人工飼料でも飼育できる
  • 幼虫は通常4回脱皮し、5齢まで成長する
  • 成熟すると糸を吐き、繭の中で蛹になる
  • 1匹が1200mを超える繭糸を吐くことがある
  • 繭糸は主にフィブロインとセリシンからできている
  • 成虫には翅があるが、飛ぶことはできない
  • 成虫は餌を食べず、およそ1週間の間に繁殖する
  • メスは500個前後の卵を産むことがある
  • 日本では、養蚕と製糸が近代産業の発展にも大きく関わった
  • 現在は、新しいシルクや医療分野などの研究にも利用されている

桑の葉を食べる白い幼虫や丸い繭はよく知られていますが、カイコガそのものが、数千年にわたる人間との関係によって形作られてきた昆虫です。

飛ぶ力を失った成虫、大量の桑を食べて急成長する幼虫、1kmを超える糸でできた繭。その一生には、独特の特徴がいくつもあります。

主要参考資料

  • 農研機構「カイコのひみつ」
  • 農研機構「カイコってすごい虫」
  • 農林水産省「特集1 蚕業革命」
  • 農林水産省「蚕糸業」
  • 群馬県蚕糸技術センター「カイコを飼ってみませんか?」
  • 群馬県蚕糸技術センター「蚕の人工飼料」
  • Tong X. et al. (2022), “High-resolution silkworm pan-genome provides genetic insights into artificial selection and ecological adaptation”, Nature Communications

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