シデムシは、動物の死骸に集まることで知られる甲虫の仲間です。
森の中でネズミや鳥などの小動物が死ぬと、ハエなどとともに姿を現し、死骸を食べたり、そこで繁殖したりします。なかでもモンシデムシの仲間は、小さな死骸を土に埋めて幼虫の餌にするという変わった習性を持っています。
さらに、親が幼虫に餌を与えたり、繁殖に使う死骸を手入れしたりする種類もいます。
ここでは、シデムシが何を食べ、どのように死骸を見つけるのか、そしてモンシデムシ類の独特な子育てまで紹介します。
シデムシとは
シデムシは、コウチュウ目シデムシ科に分類される昆虫の総称です。
日本にもオオヒラタシデムシ、クロボシヒラタシデムシ、クロシデムシ、ヤマトシデムシ、ヨツボシモンシデムシなど、さまざまな種類が生息しています。
見た目は種類によって異なります。
オオヒラタシデムシなどは黒っぽく平たい体をしています。一方、モンシデムシの仲間には黒い体に赤や橙色の模様が入った種類が多く、同じシデムシの仲間でもかなり印象が違います。
森林や草地などで見られ、地面や落ち葉の上を歩いている種類も少なくありません。
そしてシデムシと深い関係があるのが、動物の死骸です。
動物の死骸を食べる
シデムシの多くは、哺乳類や鳥、爬虫類、両生類などの死骸を利用します。
死骸そのものを食べるほか、そこに発生したハエの幼虫などを食べる種類もいます。
動物の死骸は栄養が豊富ですが、長期間残っている食べ物ではありません。
時間がたてばハエの幼虫やほかの甲虫、微生物などによって急速に分解されていきます。大型の動物に食べられてしまうこともあります。
シデムシにとって死骸は、突然現れて短期間でなくなる食べ物なのです。そのため、死骸を早く見つける能力が重要になります。
においを頼りに死骸を探す
特にモンシデムシの仲間は、触角を使って死骸から出るにおいを探します。
動物が死んで分解が始まると、微生物の働きなどによってさまざまな物質が発生します。モンシデムシはそのなかでも、腐敗の過程で発生する硫黄を含んだにおい成分などを手がかりにできます。
繁殖場所を探している個体は、飛びながら周囲を探し、死骸のにおいを感知するとその方向へ向かいます。
つまり、偶然森の中を歩いていて死骸を発見しているわけではありません。広い場所に点々と存在する小さな死骸を探し出せるよう、においを感じ取る能力が発達しています。
すべてのシデムシが死骸専門ではない
「シデムシ=死んだ動物を食べる昆虫」というイメージがありますが、シデムシ科の食生活は意外に幅があります。
腐肉を中心に利用する種類が多い一方で、死骸に集まったハエの幼虫などを捕食するものもいます。
海外にはカタツムリやイモムシなどを捕らえる種類や、植物を食べる種類まで知られています。
そのため、シデムシ科全体を「死骸しか食べない昆虫」と考えるのは正確ではありません。また、シデムシが腐ったようなにおいに引き寄せられる性質を利用する植物もあります。
スマトラ島などに生えるショクダイオオコンニャクは、動物の死骸を思わせる強烈なにおいを出します。そのにおいに引き寄せられたシデムシの仲間が花を訪れ、花粉を運ぶことが知られています。
死骸を探す能力が、植物の受粉にも利用されているのです。
死骸を土に埋めるモンシデムシ
シデムシの中でも特に変わった習性を持つのが、モンシデムシの仲間です。
繁殖期のモンシデムシは、ネズミや小鳥などの小さな脊椎動物の死骸を見つけると、その死骸を繁殖に利用します。
死骸そのものを持ち上げて穴へ投げ込むわけではなく、死骸の下や周囲から土を取り除いていくことで、少しずつ地面の中へ埋めていきます。
場所が悪ければ、死骸を動かして埋めやすいところまで運ぶこともあります。
日本のヤマトシデムシでも、動物の死骸を土中に埋め、そこで繁殖することが知られています。
死骸を幼虫のために加工する
モンシデムシの仕事は、死骸を埋めたところで終わりません。
小型の哺乳類や鳥などを繁殖に利用する種類では、毛や羽毛などを取り除き、死骸を丸みのある形に整えていきます。さらに、体から出す分泌物を死骸の表面につけます。
動物の死骸には急速に微生物が増えていきますが、モンシデムシの分泌物には一部の細菌や菌類の増殖を抑える働きがあります。
こうして加工された死骸は、これから生まれてくる幼虫のための巨大な食料になります。
親は死骸のすぐ近くの土中に卵を産みます。孵化した幼虫は死骸へ移動し、そこから肉を食べながら成長します。
カブトムシとはかなり違う「子育て」
モンシデムシ類の大きな特徴が、親による子育てです。
多くの昆虫では、メスが卵を産んだあと、親と幼虫が一緒に暮らすことはありません。しかしモンシデムシでは、幼虫が孵化したあとも親がその場に残ります。
親は死骸を管理するだけでなく、消化した肉を幼虫に口移しで与えます。幼虫自身も死骸を食べられますが、親から餌をもらう行動も見られます。
種類によってはオスとメスの両方が子育てに参加します。
メスが餌やりなどを多く担当し、オスがほかのシデムシから死骸を守る役割を果たす場合もあります。
甲虫の中では、ここまで親が幼虫の世話をする例は珍しく、モンシデムシは昆虫の子育てを研究するうえでもよく知られています。
大切な死骸をめぐる争い
小動物の死骸は、モンシデムシにとって食べ物であると同時に、子どもを育てる場所でもあります。
しかも、ちょうどよい大きさの新しい死骸が都合よく見つかるとは限りません。そのため、ひとつの死骸に複数のモンシデムシが集まることがあります。
同じ死骸を利用しようとする個体同士が出会うと争いになり、勝った個体が死骸を利用します。
すでに別のモンシデムシが繁殖を始めていた場合でも、後から来た個体が死骸を奪うことがあります。
さらに、研究されている種類では、死骸の大きさに対して幼虫の数が多すぎると、親が一部の幼虫を食べることも知られています。
利用できる肉の量には限りがあるため、残った幼虫が十分に成長できる数へ調整していると考えられています。
かわいらしい「子育て」というより、限られた死骸を使って次世代を残すための仕組みです。
シデムシについているダニ
野外でモンシデムシを観察すると、体に小さなダニがたくさんついていることがあります。
一見すると寄生されているようにも見えますが、すべてのダニがモンシデムシの体を食べているわけではありません。
一部のダニは、モンシデムシを「乗り物」として利用します。
動物の死骸はいつ、どこに現れるのか分かりません。自力では遠くまで移動しにくいダニにとって、次々と死骸を探して飛び回るモンシデムシは便利な移動手段になります。
新しい死骸へ到着するとダニもそこで活動し、ハエの卵などを食べることがあります。
その結果、モンシデムシとハエの競争に影響することもありますが、ダニとモンシデムシの関係は単純な「助け合い」とは限らず、条件によって利益にも負担にもなります。
幼虫は土の中で成虫になる
十分に成長したモンシデムシの幼虫は、やがて餌にしていた死骸から離れます。その後は土の中に潜り、蛹になって成虫へ変わります。
成長に必要な日数や活動する季節は種類や気温によって異なります。成虫で冬を越す種類もあり、暖かくなると再び活動を始めます。
シデムシの姿を見かける機会は多くありませんが、森林の地面や落ち葉の下では、死骸の出現に合わせてこうした生活が繰り返されています。
死骸を土へ戻すシデムシ
森の中では、毎日のようにさまざまな動物が死んでいます。
死骸にはシデムシだけでなく、ハエ、ハネカクシ、エンマムシなど多くの昆虫が集まり、細菌や菌類なども加わって分解が進みます。
シデムシもその一員です。死骸を食べたり、細かくしたり、土中へ運び込んだりすることで、動物の体を分解していく過程に関わっています。
シデムシの仲間すべてが同じ暮らしをしているわけではなく、地表の死骸を利用するもの、ほかの小動物を捕らえるもの、そして死骸を埋めて子どもを育てるモンシデムシまで、その生活には大きな違いがあります。
まとめ
シデムシは、動物の死骸と深く関わって暮らす甲虫の仲間です。
- 多くの種類が動物の死骸を利用する
- 死骸に集まるハエの幼虫などを食べる種類もいる
- においを手がかりに死骸を探す
- モンシデムシ類は小動物の死骸を土中へ埋めて繁殖する
- 親が死骸を加工し、幼虫に餌を与える種類がいる
- オスとメスの両方が子育てに参加することもある
- 体についたダニを新しい死骸まで運ぶことがある
- 死骸の分解に関わる昆虫のひとつである
特にモンシデムシ類では、死骸を見つけて埋めるだけでなく、餌の準備から幼虫の世話まで行います。
普段は目立たない昆虫ですが、動物の死後に起こる分解と、昆虫では珍しい子育ての両方を観察できる興味深い仲間です。
主要参照元
- 国立環境研究所「ユスリカからのメッセージ―顕微鏡下で識別する環境情報」
- 国立科学博物館「世界一大きい『花』、ショクダイオオコンニャクが開花」
- 伊丹市昆虫館・きべりはむし関連資料「兵庫県のシデムシ・チビシデムシ」
- Potticary, A. L. et al. (2024), “Revisiting the ecology and evolution of burying beetle behavior”, Ecology and Evolution

