夏になると、街中や公園、山林などさまざまな場所から聞こえてくるセミの声。日本の夏を代表する昆虫ですが、その一生の大部分は、私たちの目に触れない地中で過ごしています。
幼虫は数年にわたって地下で暮らし、木の根から水分や養分を吸いながら成長します。やがて地上へ出て羽化し、成虫になるとオスは大きな声で鳴いてメスを呼びます。
地上で見られる成虫の姿は、セミの長い一生の最後の一部分にすぎません。ここでは、セミの食べ物や幼虫時代、羽化、鳴き声、寿命など、その生態について紹介します。
セミとは?
セミはカメムシ目セミ科に分類される昆虫です。
世界には約3000種が知られており、熱帯から温帯まで広く分布しています。日本にも多くの種類が生息し、アブラゼミ、ミンミンゼミ、クマゼミ、ツクツクボウシなどは身近な種類です。
セミの特徴のひとつが、針のように細長い口です。この口を植物へ差し込み、内部を流れる液体を吸って生活しています。
これは成虫だけではありません。地中で暮らす幼虫も同じような口を持ち、植物の根から養分を得ています。
セミは何を食べている?
セミは、カブトムシのように木の表面へ染み出した樹液をなめているわけではありません。
細長い口を木の枝や幹へ差し込み、主に内部を流れる道管液を吸っています。
道管は、植物の根から吸収した水や無機養分などを地上部へ運ぶ通り道です。成虫は木の枝や幹から、幼虫は地中の根から道管液を吸います。
そのため、同じ「木から液体を吸う昆虫」でも、樹液へ集まるカブトムシやクワガタとは食べ方がかなり違います。
栄養の少ない道管液で生きられる理由
道管液は水分が多く、栄養の豊富な食べ物ではありません。
セミは多くの道管液を吸いながら、そこに含まれるアミノ酸や無機成分などを利用しています。
さらに、セミの体内には栄養を補う共生微生物が暮らしています。こうした微生物が、植物の液体だけでは不足しやすい栄養を作ることで、セミの生活を支えています。
共生相手はすべてのセミで同じではなく、種類によっては細菌に加えて菌類を利用するものも知られています。
セミの一生は卵から始まる
交尾を終えたメスは、腹部の先端にある産卵管を使い、木の枝などへ卵を産みます。
枝の内部へ小さな傷をつけ、その中へ複数の卵を産み込んでいきます。
卵から孵化するまでの期間は種類によって異なります。比較的短期間で孵化するセミもいますが、日本のアブラゼミやクマゼミでは、夏に産み付けられた卵がそのまま冬を越し、翌年の夏に孵化します。
孵化した小さな幼虫は地面へ落ち、すぐに土の中へ潜っていきます。
ここから、セミの長い地下生活が始まります。
幼虫は地下で何をしている?
地中へ潜った幼虫は、植物の根を探して生活します。
根へ口を差し込み、道管液を吸いながら何度も脱皮を繰り返し、少しずつ大きくなっていきます。
セミの幼虫について「何年間も土の中で眠っている」と表現されることがありますが、実際には地下で餌を取りながら生活しています。
前脚は成虫よりも太く頑丈で、土を掘るのに向いた形をしています。
幼虫期間は何年?
「セミは地中で7年間暮らす」という話は有名ですが、すべてのセミが7年間を地中で過ごすわけではありません。
幼虫期間は種類によって異なり、日本の身近なセミでは数年間を地下で過ごすものが多いと考えられています。アブラゼミでは2〜5年程度という推定もあります。
ただし、地下にいる小さな幼虫を孵化から羽化まで何年間も追跡するのは簡単ではありません。そのため、幼虫期間が詳しく分かっていない種類も少なくありません。
同じ種類でも、気温や餌となる植物などの条件によって成長の速さが変わる可能性があります。
地上へ出て羽化する
十分に成長した幼虫は、羽化する時期になると地表へ向かいます。
地面から出た幼虫は木の幹や草、壁などを登り、安定した場所につかまります。
やがて背中が割れ、そこから成虫の体が少しずつ現れます。羽化したばかりのセミは体が柔らかく、翅も白っぽく透き通っています。
しばらくすると翅が伸び、体も固まって本来の色へ変化します。
夏の朝に木の幹などで見つかるセミの抜け殻は、幼虫が地上へ出て羽化した跡です。
なぜ夜に羽化することが多い?
多くのセミは夕方から夜にかけて地上へ出て羽化します。
羽化している最中は体が柔らかく、飛んで逃げることもできません。日中より活動する鳥が少なく、気温も低い夜間に羽化することで、乾燥や捕食の危険を減らせると考えられます。
翌朝には体と翅が十分に固まり、飛べるようになります。
セミの成虫は1週間しか生きない?
「セミの成虫の寿命は1週間」という話を聞いたことがある人も多いでしょう。
しかし、羽化したセミが必ず1週間ほどで死ぬわけではありません。
成虫として活動する期間は種類や環境によって異なりますが、数週間に及ぶものがあります。北アメリカの周期ゼミでは、成虫になってから3〜4週間ほど活動します。
一方、野外では鳥や昆虫などに捕食されたり、天候の影響を受けたりするため、すべての個体が本来生きられる期間まで生存するわけではありません。
「成虫は1週間」と決まっているわけではないものの、数年間にわたる幼虫時代と比べれば、地上で過ごす成虫期はかなり短いといえます。
なぜセミは大きな声で鳴く?
夏に聞こえてくるセミの大きな声は、主にオスがメスを呼ぶためのものです。
オスの腹部には「発音膜」と呼ばれる特殊な膜があります。筋肉を使ってこの膜を素早く変形させ、元の形へ戻す動きを繰り返すことで音を出します。
さらに腹部にある空間が音を響かせるため、小さな昆虫とは思えないほど大きな鳴き声になります。
コオロギやスズムシのように、翅をこすり合わせて鳴いているわけではありません。
種類によって鳴き声が違う
セミは種類ごとに特徴的な鳴き声を持っています。
アブラゼミは「ジジジジ……」、ミンミンゼミは「ミーンミンミン」、クマゼミは「シャシャシャ……」というように、姿を確認できなくても鳴き声から種類を見分けられることがあります。
鳴く時間帯にも違いがあります。
クマゼミは午前中によく鳴き、ヒグラシは早朝や夕方に声が目立ちます。ツクツクボウシは夏の後半になるとよく聞かれるようになります。
また、気温や明るさ、天候などによっても鳴き方は変わります。
交尾を終えたメスは枝へ産卵する
鳴き声に引き寄せられたメスと交尾すると、メスはやがて産卵場所を探します。
多くの種類では細い枝や枯れ枝などへ産卵管を差し込み、その内部へ卵を産みます。
卵から孵化した幼虫は地面へ落下して土の中へ入り、植物の根を探します。
こうして、
卵 → 地中の幼虫 → 羽化 → 成虫 → 交尾・産卵
という一生が繰り返されます。
地上で鳴いているセミだけを見ると短命な昆虫に思えますが、卵や幼虫の期間まで含めると、その一生は何年にも及びます。
セミにも多くの天敵がいる
セミはさまざまな動物の餌になります。
成虫や地上へ出てきた幼虫を捕食する動物には、
- 鳥
- カマキリ
- クモ
- ハチ
- カエル
- トカゲ
などがいます。
羽化の途中は特に無防備で、捕食者に襲われてもほとんど逃げることができません。
また、セミには寄生する昆虫や菌類も存在します。
一方で、大量に発生するセミは森林に暮らす多くの動物にとって重要な食べ物になります。死んだセミの体も分解され、土壌へ栄養を戻します。
日本で見られる代表的なセミ
日本では、地域や季節によってさまざまなセミを見ることができます。
アブラゼミ
日本を代表するセミのひとつです。
茶褐色の不透明な翅を持つのが大きな特徴で、「ジジジジジ……」という声で鳴きます。
北海道から九州まで広く分布し、森林だけでなく公園や住宅地などでもよく見られます。
ミンミンゼミ
「ミーン、ミンミンミン……」という特徴的な声で知られています。
翅は透明で、黒い体には緑色の模様があります。
東日本では都市部の公園などでも普通に見られますが、西日本では山地など比較的涼しい場所で見られる地域が多くなります。
クマゼミ
日本に生息する大型のセミのひとつです。
透明な翅と黒い体を持ち、「シャシャシャシャ……」という大きな声で鳴きます。
特に西日本の都市部でよく見られ、街路樹に多数の個体が集まることもあります。鳴き声は朝から午前中にかけて目立ちます。
ニイニイゼミ
アブラゼミやクマゼミより小型で、夏の比較的早い時期から姿を見せます。
翅には褐色のまだら模様があり、木の幹に止まると周囲に溶け込んで見つけにくくなります。
抜け殻の表面に泥が付いていることが多いのも特徴です。
ヒグラシ
「カナカナカナ……」という鳴き声で知られるセミです。
夕暮れ時によく鳴くことから「ヒグラシ」の名がありますが、鳴くのは夕方だけではありません。早朝や曇った日にも声を聞くことがあります。
森林や林の周辺でよく見られます。
ツクツクボウシ
夏の後半から秋にかけて声が目立つようになるセミです。
「オーシンツクツク、オーシンツクツク……」などと聞こえる複雑な鳴き声が特徴で、名前もこの声に由来します。
地域によって時期は異なりますが、夏の終わりを感じさせるセミとしても親しまれています。
ハルゼミ
名前の通り、ほかの多くのセミより早い春から初夏に現れます。
本州、四国、九州などに分布し、主にマツ林と深く結びついて暮らしています。
住宅地ではあまり見かけませんが、生息するマツ林では多くの個体が一斉に鳴くことがあります。
13年・17年も地下で暮らす周期ゼミ
世界のセミの中でも特に変わった生活をするのが、北アメリカ東部に生息する周期ゼミです。
周期ゼミには、幼虫として13年間地下で暮らすものと、17年間暮らすものがいます。
さらに面白いのが、成虫が毎年少しずつ現れるのではなく、同じ地域の個体が決まった年に一斉に地上へ出てくることです。
発生地では非常に多くの個体が同時に現れ、木の幹や地面がセミで覆われるほどになることもあります。
大量発生にはどんな意味がある?
大量のセミが同時に現れると、鳥やほかの捕食者もセミを大量に食べます。
しかし、あまりにも数が多いため、捕食者が食べられる量を上回るセミが出現します。その結果、多くの個体が生き残って繁殖できます。
このような仕組みは「捕食者飽和」と呼ばれ、周期ゼミの大量発生が持つ大きな利点のひとつです。
13と17がどちらも素数であることもよく注目され、その周期がどのように進化したのかについて多くの研究が行われています。ただし、現在もさまざまな仮説が検討されており、素数だけですべてを説明できるわけではありません。
セミの飼育はなぜ難しい?
セミは非常に身近な昆虫ですが、カブトムシやクワガタのように家庭で長期間飼育されることはほとんどありません。
大きな理由が餌です。
セミは生きた植物へ口を差し込み、道管液を吸います。昆虫ゼリーや果物をケースへ入れておけば飼育できる昆虫ではありません。
成虫を長く飼うには、実際に吸汁できる植物を用意する必要があります。
幼虫になるとさらに難しく、土の中で生きた植物の根から吸汁しながら何年も成長します。研究でも幼虫を飼育すること自体が難しく、野外のセミについて幼虫期間や地下での生活に分かっていないことが多い理由のひとつになっています。
セミは捕まえてケースへ入れるより、野外で羽化や鳴き声を観察する方が、その特徴を楽しみやすい昆虫です。
まとめ
セミは夏だけ姿を現す短命な昆虫という印象がありますが、その一生の大部分は地中で過ごしています。
- セミは植物へ細長い口を差し込み、主に道管液を吸う
- 成虫だけでなく幼虫も植物から液体を吸って生活する
- 幼虫は地中で植物の根から餌を取りながら成長する
- 日本の身近な種類では、幼虫として数年間を過ごすものが多い
- アブラゼミやクマゼミでは卵の状態で冬を越し、翌夏に孵化する
- 成長した幼虫は地上へ出て羽化する
- 成虫の寿命は「必ず1週間」ではなく、数週間に及ぶものもいる
- 大きな鳴き声を出すのは主にオス
- オスは腹部の発音膜を動かして音を出す
- メスは木の枝などへ卵を産む
- 種類によって鳴き声や活動する季節、時間帯が異なる
- 北アメリカには13年・17年周期で大量発生する周期ゼミがいる
木の上で大きな声を響かせる成虫は、セミの長い一生の最後の姿です。その足元の土の中では、次の世代の幼虫が何年もかけて成長しています。
主要参照元
- Smithsonian National Museum of Natural History「Periodical Cicadas」
- 国立科学博物館附属自然教育園「自然教育園におけるセミ類の初鳴および終鳴日の記録」
- Moriyama & Numata(2008)“Diapause and prolonged development in the embryo and their ecological significance in two cicadas”
- Matsuura et al.(2018)“Recurrent symbiont recruitment from fungal parasites in cicadas”
- Simon et al.(2022)“Advances in the Evolution and Ecology of 13- and 17-Year Periodical Cicadas”

