夏の終わりから秋にかけて、草むらや庭、林の中からさまざまな虫の声が聞こえてきます。
「リーン、リーン」と響くスズムシ、「コロコロリー」と鳴くコオロギ、「チンチロリン」で知られるマツムシ。同じように翅を使って音を出していても、種類によって鳴き声は驚くほど違います。
姿を見るのは難しくても、鳴き声を覚えると、そこにどんな虫が暮らしているのか分かることもあります。
ここでは、秋を中心に鳴き声を聞くことができる代表的な昆虫と、それぞれの特徴を紹介します。
鳴く虫はなぜ鳴いている?
秋に聞こえる虫の声の多くは、コオロギやキリギリスなどバッタ目の昆虫が出している音です。
そして、よく聞く鳴き声を出しているのは主にオスです。
オスは繁殖期になると鳴き声を使ってメスへ自分の存在を知らせます。種類ごとに鳴き方が違うため、メスにとっては同じ種類のオスを見つける手がかりにもなります。
また、オス同士が近づいたときには、普段とは違った鳴き方をする種類もいます。
翅をこすり合わせて音を出す
コオロギやスズムシ、キリギリスの仲間は、口から声を出しているわけではありません。
オスの前翅には、細かな歯が並んだ部分と、それをこする部分があります。左右の翅を動かしてこの部分をこすり合わせることで音を作ります。
小さな昆虫から驚くほど大きな音が聞こえるのは、翅が音を響かせる働きも持っているためです。
気温によって翅を動かす速さも変化するため、同じ虫でも気温の高い夜と涼しい夜では、鳴き声のテンポが少し違って聞こえることがあります。
秋に鳴く代表的な虫
スズムシ
秋の鳴く虫の代表といえば、やはりスズムシです。
オスは「リーン、リーン」と澄んだ音で鳴きます。鈴を鳴らしているように聞こえることから「鈴虫」の名前が付けられました。
体は黒褐色で、非常に長い触角を持っています。日中は草むらや石の下などに隠れていることが多く、夜になると活発に活動します。
野外にも生息していますが、鳴き声が聞こえても草むらの奥に隠れているため、姿を探すのは意外と簡単ではありません。
古くから鳴き声を楽しむために飼育されてきた昆虫でもあり、現在でも夏から秋になるとペットショップやホームセンターなどで販売されることがあります。
飼育下では野菜や昆虫用の餌などを食べる雑食性で、繁殖させることもできます。秋に産んだ卵が冬を越し、翌年に幼虫が孵化します。
コオロギ
スズムシと並んで身近な鳴く虫がコオロギです。
日本には多くの種類が生息しており、種類によって鳴き声も大きく異なります。
代表的なのがエンマコオロギです。
大型のコオロギで、草むらや庭、畑、道路脇などさまざまな場所に生息しています。「コロコロリー」「コロコロコロ……」などと聞こえるよく通る声で鳴きます。
名前の「エンマ」は、顔の模様を閻魔大王に見立てたものとされています。
一方、ミツカドコオロギは「リッ、リッ、リッ……」と短い音を繰り返します。
コオロギというひとつの名前でまとめられていますが、鳴き声を聞き比べるとかなり違いがあります。
草むらだけでなく住宅地にも暮らしているため、庭や植木鉢の周辺、石や落ち葉の下などから声が聞こえてくることもあります。
マツムシ
「チンチロリン」という鳴き声で有名なのがマツムシです。
童謡『虫のこえ』でも、
「ちんちろ ちんちろ ちんちろりん」
と歌われる、日本を代表する鳴く虫のひとつです。
体長は2cmほどで褐色をしており、スズムシよりも後脚が長く、全体的に細長い姿をしています。
成虫は夏から秋に現れ、夜になると丈の高い草の根元付近などで鳴きます。
マツムシは河川敷や林の縁など、ある程度背の高い草が生えた場所を好みます。そのため、草地がなくなったり、環境が大きく変わったりすると姿を消すことがあります。
声はよく聞こえるのに、草の中へ入って探してもなかなか見つからない虫です。
アオマツムシ
名前はマツムシに似ていますが、姿も鳴き声もかなり違うのがアオマツムシです。
全身が鮮やかな緑色で、地上よりも木の上で生活することが多い昆虫です。
オスは「リーッ、リーッ」「リーリーリー……」という大きな声で鳴きます。
1匹だけなら比較的分かりやすい声ですが、多数のオスが街路樹などで一斉に鳴くと、個々の音が重なって非常に大きな音になります。
日本には古くからいた昆虫ではなく、外来種と考えられています。明治時代以降に東京などで確認され、その後分布を広げました。
現在では都市部にも多く、公園や街路樹から聞こえてくる秋の大きな虫の声が、実はアオマツムシだったということも珍しくありません。
キリギリス
「ギー、チョン」「ギー、ギー、チョン」といった声で知られるのがキリギリスです。
緑色または褐色の大きな体と非常に長い触角を持ち、日当たりのよい草原などで見られます。
コオロギやスズムシは夜によく鳴きますが、キリギリスは昼間にも盛んに鳴きます。
食性も少し違います。植物も食べる雑食性ですが肉食性が強く、ほかの昆虫を捕らえて食べることもあります。
かつて日本のキリギリスはひとつの種類として扱われることが多かったのですが、現在は東日本を中心に分布するヒガシキリギリスと、西日本を中心に分布するニシキリギリスに分ける扱いが広く使われています。
両者には地域によるさまざまな違いがあり、日本のキリギリス類は現在も分類に未解明な部分が残されています。
ウマオイ
「スイーッチョン」という印象的な鳴き声で知られるのがウマオイです。
名前も、鳴き声を昔の馬子が馬を追うときの掛け声に見立てたことに由来します。
本州、四国、九州には、よく似たハヤシノウマオイとハタケノウマオイが生息しています。
ハヤシノウマオイは林の周辺や藪などで見られ、
「スイーーーッチョン」
と長く伸ばして鳴きます。
一方、ハタケノウマオイは河川敷や開けた草地などで見られ、
「スイッチョ、スイッチョ」
と比較的短い間隔で鳴きます。
外見は非常によく似ているため、野外では鳴き声が種類を知る大きな手がかりになります。
見た目は細身のキリギリスですが肉食性が強く、脚にあるトゲを使って小さな昆虫を捕まえて食べます。
ヤブキリ
ヤブキリはキリギリスに似た緑色の昆虫です。
春に小さな幼虫が現れ、成長するにつれて草の上から低木や樹上などへ生活場所を広げていきます。
成虫になると肉食性がかなり強くなり、昆虫などを捕らえて食べます。
鳴き声は「シリリリリ……」などと表現される連続した音で、夜の林や藪から聞こえてくることがあります。
キリギリスの「ギー、チョン」やウマオイの「スイーッチョン」のように人の言葉へ置き換えやすい鳴き方ではなく、細かな音が連続して聞こえるのが特徴です。
ヤブキリは夏から鳴き始めるため、秋だけの昆虫ではありません。夏の夜から秋にかけて聞こえるキリギリス類の声のひとつです。
クツワムシ
大きな体と非常に大きな鳴き声を持つのがクツワムシです。
体は緑色または褐色で、大型のキリギリスのような姿をしています。
鳴き声は「ガチャガチャガチャ……」と表現されることが多く、近くで聞くとかなりの音量です。
名前も、この鳴き声を馬具の「轡(くつわ)」が鳴る音に見立てたことに由来します。
クズなどが茂る林の縁や草地に暮らし、夏の終わりから秋にかけて成虫が見られます。
童謡『虫のこえ』に登場する「ガチャガチャガチャガチャ クツワムシ」もこの虫です。
カンタン
鳴く虫の中でも、特に繊細な声を持つのがカンタンです。
「ルルルルル……」と聞こえる細く連続した音で鳴き、スズムシやクツワムシとはかなり違った印象があります。
体は淡い黄緑色で細長く、体長は1〜2cmほどの小さな昆虫です。
ススキやヨモギなどが生える草地で見られます。
名前から「簡単」という言葉を連想しますが、鳴き声を頼りに草の中から小さな本体を探し出すのはそれほど簡単ではありません。
虫によって鳴く場所も違う
鳴く虫を探すときは、声だけでなく「どこから聞こえてくるか」に注目すると種類を絞りやすくなります。
地面近くの草むらから聞こえてくるなら、スズムシやコオロギ、マツムシなどが候補になります。
木の上から大きな「リーリー」という声が聞こえるなら、アオマツムシの可能性があります。
林の縁から「スイーッチョン」と聞こえればハヤシノウマオイ、開けた草地から短い「スイッチョ」が続けばハタケノウマオイを探してみるのも面白いでしょう。
虫の姿が見えなくても、鳴き声と環境を組み合わせれば、そこに暮らしている種類が少しずつ分かるようになります。
秋だけに鳴くわけではない
スズムシやコオロギの声は秋の風物詩として知られていますが、鳴く虫の活動時期は種類によって違います。
キリギリスやヤブキリは夏から鳴き始めますし、エンマコオロギも地域や年によっては7月ごろから声が聞こえます。
一方、秋が深まって気温が低くなると、多くの種類で活動は次第に鈍くなっていきます。
そのため、夏の終わりから秋にかけては、季節の進み方によって聞こえる虫の組み合わせも変化します。
8月にはキリギリス類の声が目立ち、9月になるとコオロギやスズムシなどの声が増え、さらに季節が進むと少しずつ静かになっていきます。
鳴き声を聞いて種類を探してみよう
鳴く虫は、姿を探すより先に声を見つける昆虫です。
夜の公園や草むらを歩いていると、何種類もの虫が同時に鳴いていることがあります。
最初は全部同じような音に感じても、
- リーン、リーン
- コロコロリー
- チンチロリン
- スイーッチョン
- ギー、チョン
- ガチャガチャ
- ルルルルル
といった特徴を覚えると、少しずつ聞き分けられるようになります。
スマートフォンで鳴き声を録音して、後から種類を調べてみるのも面白い方法です。
まとめ
夏の終わりから秋にかけて、日本ではさまざまな鳴く虫の声を聞くことができます。
草むらから聞こえる虫の声は、ただの秋のBGMではありません。それぞれの種類が違う場所で暮らし、違う音を使って仲間へ存在を知らせています。
姿が見えなくても、鳴き声を覚えるだけで身近な草むらの生き物が少しずつ見えてきます。
主要参照元
- 環境省「モニタリングサイト1000里地調査 指標種の生態情報」
- 環境省 皇居外苑「秋と昆虫」
- 国立環境研究所「侵入生物データベース」
- 国土交通省「太田川生物図鑑」
- 佐用町昆虫館「鳴く虫」に関する各種資料

