キリギリスの飼い方と生態 餌や鳴き声、産卵を解説

夏の草むらから、「ギーッ、チョン」と響く大きな鳴き声が聞こえてくることがあります。その声の主としてよく知られているのがキリギリスです。

長い触角と力強い後ろ脚を持ち、草の間を移動する姿はバッタにも似ています。しかし、食べ物は植物だけではなく、ほかの昆虫を捕らえて食べることも多い雑食性の昆虫です。

さらに、土の中に産み付けられた卵には、翌春に孵化するものだけでなく、二度の冬を越してから孵化するものもあります。ここでは、キリギリスの特徴や鳴き声、食べ物、繁殖、飼育方法などについて紹介します。


キリギリスとは

キリギリスは、バッタ目キリギリス科に属する昆虫です。本州、四国、九州に広く分布し、日当たりのよい草原や河川敷などで見られます。

成虫の体長はおよそ3〜5cmで、体色には緑色と褐色があります。背中には褐色の部分があり、前翅には黒い斑点が並ぶ個体も見られます。

特に目立つのが非常に長い触角です。バッタの仲間では触角が比較的短い種類が多いのに対し、キリギリスでは体より長くなるほど伸びています。

メスには長い産卵管がある

オスとメスは、腹部の先を見ると比較的簡単に区別できます。メスには剣のように細長い産卵管があり、産卵するときにはこれを地面へ差し込みます。

オスにはこの長い産卵管がなく、成虫になると前翅を使って大きな声で鳴きます。草むらでよく聞こえるキリギリスの鳴き声は、基本的にオスが出しているものです。

地域によって姿に違いがある

日本本土のキリギリスは地域による違いが大きく、国内の図鑑や環境調査では「ヒガシキリギリス」と「ニシキリギリス」という名前で扱われることがあります。

東日本側と西日本側では、翅の長さや黒い斑点の入り方、鳴き声などに違いが見られます。ただし、地域を移動するにつれて特徴が連続的に変化する場所もあり、分類上の扱いは資料によって異なります。

この記事では、こうした日本本土に暮らすキリギリス類をまとめて「キリギリス」として紹介します。北海道には近縁のハネナガキリギリス、南西諸島にはオキナワキリギリスなど、よく似た仲間も分布しています。

背丈のある草原で暮らす

キリギリスは、日当たりがよく、ある程度草丈のある草原を好みます。河川敷や堤防、野原、農地の周辺などで見つかることがあり、草が深く茂った場所に潜んで生活しています。

短く刈り込まれた芝生より、イネ科植物などが茂った場所でよく見られます。国土交通省の河川環境資料でも、背丈の高い草原を代表的な生息場所として紹介しています。

成虫が現れる時期には地域差があり、暖かい地域では6月下旬ごろから鳴き始めます。寒冷な地域ではそれより遅く、夏になると草むらから特徴的な声が聞こえるようになります。

キリギリスの鳴き声

キリギリスの鳴き声は、「ギーッ、チョン」「ギース、チョン」などと表現されます。実際には長い「ギー」という音を繰り返しながら、合間に短い音を挟むように聞こえることがあります。

鳴くのはオスで、主に昼間に鳴きます。メスはその音を聞き、鳴いているオスへ近づいていきます。

鳴き方には個体差や地域差もあり、気温によって鳴く間隔が変化することもあります。草の奥に隠れていることが多いため、野外では姿より先に鳴き声でキリギリスの存在に気づくことも珍しくありません。

翅をこすり合わせて鳴く

キリギリスは、口から声を出しているわけではありません。オスの前翅には音を出すための構造があり、左右の翅をこすり合わせることで鳴き声を作ります。

キリギリス科の仲間では、前翅に細かなギザギザが並んだ部分と、それをこする部分があります。翅を動かすと連続した振動が発生し、翅の一部で音が響くことで大きな鳴き声になります。

体長数cmほどの昆虫から草原に響くほどの声が出るのは、このような発音に適した翅を持っているためです。

耳は前脚にある

鳴き声を聞き取るための器官も、キリギリスには備わっています。その場所は頭部ではなく、前脚です。

キリギリス科では、前脚のすねに鼓膜のような構造を持っています。ここで空気中を伝わってきた音を感じ取り、ほかの個体の鳴き声を聞くことができます。

長い触角も、周囲の物やほかの生き物を探るために使われています。草が入り組んで視界の悪い環境では、音や触角から得られる情報が生活に役立っています。

キリギリスは何を食べる?

キリギリスは植物と動物の両方を食べる雑食性の昆虫です。植物ではイネ科植物などの葉や茎を食べる一方、ほかの昆虫も積極的に捕らえます。

国土交通省の資料でも、雑食性ながら肉食性が強く、ほかの昆虫などを捕食すると紹介されています。小型のバッタや昆虫の幼虫など、草むらで出会ったさまざまな獲物を利用します。

幼虫のころから植物と動物の両方を食べますが、大きくなるにつれて昆虫を捕らえる姿も目立つようになります。大きなあごを持つため、見た目以上に力強く獲物を食べる昆虫です。

トゲのある脚で獲物を押さえる

キリギリスの前脚や中脚をよく見ると、多数のトゲが並んでいます。獲物を捕らえると脚を使って押さえ込み、発達したあごでかじって食べます。

植物を中心に食べるバッタとは、食事をしている姿もかなり違います。草むらでは自分より小さな昆虫を捕食する一方、キリギリス自身も鳥やカエルなど、さまざまな動物に狙われます。

飼育下では、ほかのキリギリスを攻撃する場合もあります。狭いケースへ複数の個体を入れると共食いが起こることがあるため、飼育するときには注意が必要です。

バッタとの違い

キリギリスとバッタは、どちらもバッタ目に属する昆虫です。大きな後ろ脚を使って跳ねるところも共通していますが、体を見るといくつか違いがあります。

最も分かりやすいのは触角です。キリギリスの触角は非常に長く、体長を超えることもありますが、一般的なバッタではかなり短くなっています。

メスの産卵管にも違いがあります。キリギリスのメスには腹部の後ろへ伸びる長い産卵管があり、これを使って土の中へ卵を産みます。

食生活にも違いがあり、バッタには植物を主に食べる種類が多く見られます。一方、キリギリス科には動物質の餌を積極的に利用する種類が多く、キリギリスもその一つです。

卵から幼虫、成虫へ成長する

キリギリスは、卵から孵化した幼虫が何度も脱皮しながら大きくなり、成虫になります。チョウやカブトムシのような蛹の時期はありません。

孵化した幼虫は小さいながらも成虫によく似ています。成長するにつれて体と後ろ脚が大きくなり、翅も少しずつ発達していきます。

春に現れた幼虫は、初夏から夏にかけて成長します。成虫になるとオスが鳴き始め、メスとの繁殖が行われるようになります。

メスは土の中へ産卵する

交尾を終えたメスは、腹部の先にある長い産卵管を地面へ差し込み、土の中へ卵を産みます。産卵管は細長く、地表からある程度の深さまで差し込むことができます。

産み付けられた卵は土の中に残り、寒い季節を過ごします。ここから翌春に幼虫が現れ、次の世代が始まります。

ただし、キリギリスの卵には少し変わった特徴があります。同じ年に同じメスが産んだ卵でも、すべてが翌年に孵化するとは限りません。

翌年に孵化する卵と2年後に孵化する卵

キリギリスの卵について詳しく調べた研究では、翌春に孵化する「1年卵」と、二度の冬を越してから孵化する「2年卵」が確認されています。

一匹のメスが、1年卵と2年卵の両方を産むこともあります。その割合には地域差があり、青森県で調べられた個体では1年卵が少なく、東京から愛媛県までの個体では1年卵の割合が高い傾向が確認されています。

さらに、休眠が長く続いて2年以上孵化しない卵もあります。産み付けられた卵が複数の年に分かれて孵化することは、キリギリスの繁殖で特に興味深い特徴です。

なぜ孵化する年が違う?

キリギリスの卵には、発生の途中で成長を止める「休眠」があります。季節の変化を受けながら休眠と発生を進めるため、孵化するまでの期間に大きな違いが生まれます。

2017年にまとめられた研究では、卵が翌春に孵化するか、さらに一年休眠するかには地域差があり、遺伝的な違いと環境条件の両方が関係しているとされています。

寒冷な地域では、幼虫が成長できる暖かい季節が短くなります。孵化する年を分散させる生活は、毎年変化する気候の中で世代を残す仕組みの一つと考えられています。

キリギリスの飼育方法

キリギリスは昆虫用の飼育ケースで飼うことができます。飼育するときには、餌だけでなく、草につかまって過ごせる空間を作ります。

伊丹市昆虫館では、バッタやキリギリスの飼育ではケースを縦向きに使い、イネ科などの草を入れる方法を紹介しています。キリギリスは地面だけでなく草の上で生活することが多いため、高さのある空間を確保すると飼育しやすくなります。

ケース内にはススキやエノコログサなどの草や、つかまれる枝などを入れます。夏の密閉されたケースは高温になりやすいため、風通しのよい場所で管理し、ケース内の蒸れにも注意します。

飼育するときの餌

飼育下でも、植物質と動物質の両方を用意します。伊丹市昆虫館では、イネ科などの草に加え、リンゴやニンジン、煮干しやラビットフードなどをバッタ・キリギリス類の餌として紹介しています。

キリギリスは肉食性が強いため、植物だけで飼育するよりも動物質の餌も与えます。市販の昆虫用フードなども利用できます。

生の餌は傷みやすいため、食べ残しは早めに取り除きます。植物も枯れてきたら新しいものへ交換し、ケース内を清潔に保ちます。

野外から草を採集して与える場合は、農薬が使われている可能性のある場所を避けます。特に道路沿いや農地の植物を利用するときには、採集場所にも注意が必要です。

共食いに注意する

キリギリスは肉食性が強く、飼育ケースの中でほかの個体を襲うことがあります。特に複数の個体を狭い場所へ入れたり、動物質の餌が不足したりすると、共食いが起こりやすくなります。

一匹だけを観察するのであれば、単独で飼育すると管理しやすくなります。複数を飼育する場合は大きめのケースを使い、十分な餌と隠れ場所を用意します。

脱皮直後の個体は体が柔らかく、ほかのキリギリスに襲われやすい状態です。幼虫を複数飼育するときにも、個体数を増やしすぎないようにします。

飼育下で産卵させるには

メスに産卵させたい場合は、ケースの中に湿った土を入れた容器を置きます。伊丹市昆虫館では、5cmほどの深さまで土を入れた容器をバッタ・キリギリス類の産卵場所として紹介しています。

交尾を終えたメスは産卵管を土へ差し込み、内部に卵を産みます。産卵後は土を完全に乾燥させず、かといって常に水浸しになる状態も避けながら管理します。

キリギリスの卵は休眠するため、成虫を飼育して産卵まで成功しても、すぐに次の世代が生まれるわけではありません。翌春に孵化する卵もあれば、さらに翌年まで残る卵もあります。

繁殖には時間がかかる

キリギリスの飼育で繁殖が難しく感じられる理由の一つが、この長い卵期間です。スズムシのように翌年の孵化だけを待てばよいとは限らず、孵化しなかった卵をさらに長く管理する場合があります。

卵は自然の中では季節による温度変化を受けながら休眠します。飼育下で次の世代まで育てる場合も、産卵した土を長期間管理する必要があります。

一度目の春に何も出てこなくても、その中に2年卵が残っている可能性があります。キリギリスの繁殖を観察するには、成虫だけでなく卵を長期間管理することが重要になります。

キリギリスを探すには

野外でキリギリスを探すときには、夏の日当たりのよい草原や河川敷を探します。背丈のある草が茂った場所で「ギーッ、チョン」と聞こえる声を探すと、オスのいる場所を絞り込みやすくなります。

ただし、人が近づくと鳴き止まり、草の中へ隠れることがあります。鳴き声が聞こえた方向を覚えておき、急に草むらへ入らず、少し離れたところから探すと姿を見つけやすくなります。

メスは鳴かないため、鳴き声だけでは探せません。草の葉や茎の上を注意深く見たり、捕虫網を使ったりすると見つかることがあります。

キリギリスは噛む?

キリギリスには大きく発達したあごがあり、昆虫を捕らえて食べることができます。人を積極的に襲う昆虫ではありませんが、手で強くつかむと防御のために噛みつくことがあります。

大型の個体に噛まれると痛みを感じるため、無理につまんで持ち上げるのは避けます。飼育ケースへ移す場合は、網や小さな容器を使うと扱いやすくなります。

メスの腹部にある長い産卵管も目立ちますが、これは人を刺すための針ではありません。土の中へ卵を産むために使われる器官です。

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まとめ

  • キリギリスはバッタ目キリギリス科に属する昆虫です。
  • 本州、四国、九州に分布し、日当たりのよい背丈のある草原などで暮らしています。
  • オスは前翅をこすり合わせ、「ギーッ、チョン」などと聞こえる声で鳴きます。
  • 音を感じ取る器官は前脚にあります。
  • 植物と動物の両方を食べる雑食性で、ほかの昆虫も積極的に捕食します。
  • メスには長い産卵管があり、土の中へ卵を産みます。
  • 翌春に孵化する1年卵と、二度の冬を越して孵化する2年卵があります。
  • 一匹のメスが1年卵と2年卵の両方を産むこともあります。
  • 飼育では草などの足場と、植物質・動物質の両方の餌を用意します。
  • 肉食性が強いため、複数飼育では共食いに注意が必要です。
  • 繁殖させる場合は土の入った産卵場所を用意し、卵を長期間管理します。

草むらから聞こえてくる大きな鳴き声で知られるキリギリスですが、昆虫を捕らえる肉食性や、前脚にある耳、孵化する年が異なる卵など、さまざまな特徴を持っています。

特に卵の生活は独特で、同じメスから生まれた卵でも翌年と翌々年に分かれて孵化することがあります。夏にキリギリスの声を聞いたときには、草の奥で暮らす姿だけでなく、土の中で次の春やさらにその先を待っている卵の存在も思い出してみてください。

主要参考文献

  • 国土交通省中国地方整備局「キリギリス」
  • 環境省「指標昆虫に着目した簡便な生物多様性モニタリング手法」
  • 新井哲夫(2017)「キリギリス(Gampsocleis buergeri & G. micado)の卵休眠」
  • Natural History Museum「Earliest insect ears reveal the soundscape of the dinosaur age」
  • 伊丹市昆虫館『いたこんニュース 第27号 バッタ・キリギリスの飼育』

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