カミキリムシと聞くと、長い触角を持ち、木の幹を歩いている甲虫を思い浮かべる人も多いでしょう。
しかし、カミキリムシの姿や暮らし方は種類によって大きく異なります。鮮やかな青や赤の体を持つもの、大型で夜に活動するもの、花の上でよく見つかる小型種など、その姿は驚くほど多彩です。
幼虫が育つ場所にも違いがあります。枯れ木や伐採木を利用する種類がいる一方、生きた樹木や竹の内部で成長するものもいます。
ここでは、日本で見られるカミキリムシのなかから、姿や暮らし方に特徴のある7種類を紹介します。
ルリボシカミキリ
ルリボシカミキリは、鮮やかな瑠璃色の体に黒い斑紋が入る、日本を代表する美しいカミキリムシです。
体長は16〜30mmほどで、北海道から九州まで広く分布しています。体だけでなく長い触角も青と黒に彩られ、野外で出会うとひときわ目立ちます。
主に広葉樹林に暮らし、成虫は6〜9月ごろに見られます。ブナ、ナラ、カエデ、ヤナギなどの倒木や伐採木、薪などに集まり、樹液や花、果実を利用することもあります。
幼虫は枯れた広葉樹の材を食べて成長します。そのため、山の中だけでなく、伐採された木や薪が積まれている場所で成虫が見つかることもあります。
生きているときに美しい青色
ルリボシカミキリの大きな特徴が、その鮮やかな青色です。
この色は生きた個体で特に美しく見えますが、死後は少しずつくすんでいきます。標本では灰色や褐色がかった姿になることもあるため、生きたルリボシカミキリの色は写真や標本とはかなり違って見える場合があります。
日本にだけ自然分布する固有種でもあり、見た目だけでなく分布の面でも特徴的なカミキリムシです。
ミヤマカミキリ
ミヤマカミキリは、日本に生息するカミキリムシのなかでも最大級の種類です。体長は34〜57mmほどになり、太い体と長い触角にはかなりの迫力があります。
名前に「ミヤマ」と付きますが、深い山だけに暮らしているわけではありません。北海道から九州まで分布し、平地から低山地の雑木林や都市部の公園でも見られます。
体は黒褐色から黒色ですが、背中を黄褐色の細かな毛が覆うため、全体としてくすんだ茶色に見えます。
夏の夜に樹液へやって来る
成虫は6〜8月ごろに現れ、主に夜に活動します。クヌギやコナラなどの樹液へ集まり、灯火へ飛んでくることもあります。
夏の雑木林でカブトムシやクワガタムシを探しているときに、一緒に見つかることがあるカミキリムシです。
幼虫はクリ、クヌギ、コナラなどをはじめ、さまざまな広葉樹の材の中で成長します。枯れ木だけを利用するのではなく、生きた木にも入るため、クリなどの害虫として扱われることがあります。
ヘリグロベニカミキリ
ヘリグロベニカミキリは、鮮やかな赤色と黒色の組み合わせが目を引くカミキリムシです。
体長は12〜20mmほどで、北海道から九州まで分布しています。前胸や上翅が赤く、上翅には一対の黒い斑紋が入る個体が多く見られます。
成虫は主に4〜6月ごろに現れ、カエデ類やノリウツギ、ガクアジサイなどの花を訪れます。春から初夏に林道や林縁の花を観察していると、ほかの花を訪れる昆虫と一緒に見つかることがあります。
幼虫はカエデ類や竹類などを利用して成長します。
ベニカミキリによく似ている
ヘリグロベニカミキリは、次に紹介するベニカミキリとよく似ています。
ヘリグロベニカミキリでは前胸の側面が黒く縁取られ、黒い短毛が目立ちます。上翅には黒い斑紋があることが多いものの、斑紋を欠く個体もいるため、模様だけで判断すると迷うことがあります。
体全体の模様や毛の生え方など、複数の特徴を合わせて見分けます。
ベニカミキリ
ベニカミキリも、名前の通り鮮やかな赤色をしたカミキリムシです。体長は13〜17mmほどで、日本各地に分布しています。
頭部や触角、脚は黒く、前胸と上翅が赤くなります。上翅は黒い斑紋がない個体が多いものの、黒斑を持つ場合もあります。
成虫は春から初夏に活動し、クリなどの花を訪れます。竹林の周辺や人家の近くでも見つかることがありますが、これは幼虫の暮らしと深く関係しています。
幼虫は竹の中で育つ
ベニカミキリの幼虫は竹材を食べて成長します。
メスは枯れた竹の割れ目などに卵を産み、孵化した幼虫は内部へ潜り込んで竹を食べます。古い竹材や竹製品を食害することもあり、文化財を傷める昆虫の一つとしても知られています。
幼虫は竹の内部で暮らしますが、成虫になると花を訪れます。同じ昆虫でも、成長段階によって利用する場所が大きく変わる種類です。
アオスジカミキリ
アオスジカミキリは、褐色の体に青緑色の光沢を持つ筋が入るカミキリムシです。
体長は15〜35mmほどで、日本では本州、四国、九州に分布しています。名前から全身が青い昆虫を想像するかもしれませんが、実際には黄褐色から褐色の体に、金属光沢のある青緑色の模様が走っています。
成虫は6〜8月ごろに見られます。東アジアから熱帯地域まで広く分布する種類で、日本ではネムノキとの関係が特に深いカミキリムシです。
日本ではネムノキを利用する
アオスジカミキリの幼虫は、生きたマメ科の樹木を利用します。
海外ではアカシア類など多くのマメ科樹木から記録されていますが、日本で食樹として知られているのはネムノキです。
メスは樹皮に産卵し、孵化した幼虫は樹皮の下から木の内部を食べながら成長します。被害を受けたネムノキが枯れることもあります。
そのため、アオスジカミキリを探すときには、ネムノキが生えている場所が大きな手がかりになります。
スギカミキリ
スギカミキリは、名前の通りスギとの関係が深いカミキリムシです。
体長は14〜23mmほどで、本州、四国、九州に分布しています。黒っぽい体の上翅には黄褐色の斑紋があり、触角や脚は赤褐色を帯びます。
ほかの多くのカミキリムシより早い時期に活動を始め、成虫は主に3〜5月ごろに見られます。
スギやヒノキの生きた木を加害する
スギカミキリは、日本の林業でよく知られた害虫です。
幼虫はスギやヒノキなどの生きた木に入り込み、まず樹皮の下を食べ、成長すると内樹皮や材の表面付近まで食害します。
食害によって材の品質が低下するだけでなく、被害が大きい場合には木が枯れることもあります。特にヒノキでは、少数の幼虫による食害でも木の周囲を取り巻くように食べ進むことで、枯死につながる場合があります。
枯れ木を分解する多くのカミキリムシとは異なり、生きたスギやヒノキを利用することが、この種類の大きな特徴です。
シロトラカミキリ
シロトラカミキリは、黒色の体を白色から黄白色の細かな毛が覆う、小型のカミキリムシです。
体長は10〜16mmほどで、北海道から九州まで広く分布しています。白っぽい地色に黒い模様が入ったように見え、体形も細いため、大型のカミキリムシとはかなり印象が異なります。
成虫は5〜8月ごろに活動し、日中にクリ、カエデ類、ノリウツギなどの花を訪れます。花粉や蜜を食べるため、初夏から夏に花を観察していると出会えることがあります。
幼虫は枯れた広葉樹で育つ
メスはブナ、シラカシ、ケヤキなどの枯れ木や伐採木に産卵し、幼虫は材の内部を食べながら成長します。
そのため、成虫を探すときには花だけでなく、周囲にある倒木や伐採された広葉樹にも注目するとよいでしょう。
幼虫のころは木の中で暮らし、成虫になると花を訪れるという生活の変化も、シロトラカミキリの特徴です。
カミキリムシは種類によって暮らし方が違う
今回紹介した7種類だけでも、カミキリムシの暮らし方には大きな違いがあります。
ルリボシカミキリやシロトラカミキリの幼虫は、主に枯れた広葉樹を利用します。一方、ミヤマカミキリは生きた広葉樹にも入り、アオスジカミキリはネムノキ、スギカミキリはスギやヒノキの生木を利用します。ベニカミキリの幼虫は竹の中で成長します。
成虫の生活も同じではありません。ミヤマカミキリは夏の夜に樹液へ集まり、ヘリグロベニカミキリやシロトラカミキリは花の上で見つかります。スギカミキリは春早くから活動するため、見つけやすい季節にも違いがあります。
同じカミキリムシ科でも、それぞれ異なる植物や環境を利用しながら暮らしているのです。
カミキリムシを探すなら植物にも注目
カミキリムシを探すときには、昆虫そのものだけでなく、周囲にどんな植物があるのかを見ることも大切です。
夏の雑木林で樹液が出ていればミヤマカミキリ、広葉樹の伐採木があればルリボシカミキリ、春から初夏に花が咲いていればヘリグロベニカミキリやシロトラカミキリなどが見つかる可能性があります。
ネムノキならアオスジカミキリ、竹林ならベニカミキリ、スギやヒノキの林ならスギカミキリというように、植物の種類からカミキリムシを探すこともできます。
色や模様だけでなく、「どんな木にいたのか」「花に来ていたのか」「枯れ木の近くだったのか」にも注目すると、それぞれの種類の暮らし方が見えてきます。
まとめ
- ルリボシカミキリは鮮やかな青色が特徴で、幼虫は広葉樹の枯れ木などを利用します。
- ミヤマカミキリは日本最大級のカミキリムシで、夏の夜に樹液や灯火へやって来ます。
- ヘリグロベニカミキリは赤と黒の体色を持ち、春から初夏に花を訪れます。
- ベニカミキリの幼虫は竹の中で成長し、成虫になると花を訪れます。
- アオスジカミキリは青緑色の筋が特徴で、日本では幼虫がネムノキを利用します。
- スギカミキリはスギやヒノキの生木を加害し、林業上の重要な害虫として知られています。
- シロトラカミキリは白っぽい模様を持つ小型種で、成虫はさまざまな花を訪れます。
カミキリムシは長い触角という共通点を持ちながら、色や大きさ、活動する季節、幼虫が利用する木までさまざまです。
森林や公園を歩くときには、花や樹液だけでなく、倒木や伐採木、周囲に生えている樹木にも目を向けてみてください。植物との関係を知ることで、カミキリムシ探しはさらに面白くなります。
主要参考文献
- 大林延夫・新里達也 編著『日本産カミキリムシ』東海大学出版会
- 国際緑化推進センター「アオスジカミキリ属の樹幹穿孔性カミキリムシ」
- 森林総合研究所「スギカミキリ被害」関連資料

