太い脚に長い触角、大きな顎を備えた茶褐色の体。リオックは、インドネシアのジャワ島に生息する大型の昆虫です。日本では「オバケコロギス」とも呼ばれ、迫力のある姿で知られています。
大型の個体は体長8〜9cmほどに達し、大きな頭部と発達した大顎はかなりの存在感があります。一方で、飼育下では物の隙間に入り込んだり、落ち葉や床材を大顎で運んだりする行動も観察されています。
ここでは、リオックの大きさや生息地、大顎や翅の特徴、食性、成長、近縁の仲間、日本で知られるようになった経緯について紹介します。
リオックはどんな昆虫
コオロギやキリギリスに近い仲間
リオックは、バッタやキリギリス、コオロギなどと同じバッタ目(直翅目)に属する昆虫です。
一般的なコオロギと同じ科ではなく、現在はStenopelmatidaeという科のSia属に分類されています。
Sia属は1861年に設けられ、リオックはその基準となった種です。種小名の「ferox」には「獰猛な」「荒々しい」といった意味があり、大きく発達した大顎にちなんで名付けられました。
北米などに生息するエルサレムコオロギ類とは同じ科に分類されています。大きな頭部や太い脚など、どこか似た雰囲気を持つ仲間です。
大型個体は8〜9cmほど
リオックはバッタ目の中でもかなり大型の昆虫です。
多摩動物公園で2012年に展示された個体は体長85mmあり、同園では約9cmにもなる大型昆虫として紹介されています。
体は茶色から濃い茶褐色で、大きな頭部と厚みのある胴体、太い脚を持っています。細身のキリギリスや身近なコオロギとはかなり印象が異なり、全体的にがっしりとした体つきです。
大きな顎と太い脚
発達した大顎
リオックの外見で特に目を引くのが、大きな頭部と発達した大顎です。
大顎は食べ物を噛んだり、物をつかんだりするときに使われます。学名の「ferox」も、この目立つ大顎に由来しています。
日本では「段ボールを噛み破る」といった話が語られることもありますが、リオックの噛む力を測定し、ほかの昆虫と数値で比較した研究は確認されていません。
それでも、大きく頑丈な大顎がリオックを特徴づける体の一部であることは、ひと目見れば分かります。
トゲの並ぶ太い脚
リオックは脚も太く発達しており、脛には複数のトゲが並んでいます。
長い触角、大きな頭部、発達した大顎と組み合わさることで、独特の力強い姿をつくっています。
飼育下では物の隙間に入り込んだり、地面へ潜ろうとしたりする姿も観察されており、脚を使って狭い空間へ体を押し込むように動くことがあります。
リオックには翅がある
リオックの成虫には発達した翅があります。
Sia属の東南アジア産の仲間は、分類学的な研究でも完全に発達した翅を持つグループとして記載されています。成虫では長い前翅が背中から伸び、その下に後翅があります。
これは、北米でよく知られる無翅のエルサレムコオロギ類とは目立った違いです。
リオックについて「翅がない」と説明されることがありますが、成虫の標本や分類資料を見ると、翅があることははっきり確認できます。
リオックの生息地
ジャワ島に生息する
リオックはインドネシアのジャワ島から知られています。
1861年に記載されたリオックもジャワ島産でした。近年の分類研究でもジャワ島の種として扱われており、西ジャワのハリムン・サラク国立公園で採集された個体も調べられています。
かつてはスマトラ島やボルネオ島などからもリオックとして記録された個体がありました。しかし、Sia属の再検討によって、スマトラ島の個体は別種のSia incisa、ボルネオ島北部の個体はSia bugajusとして整理されています。
物陰に入り込んで過ごす
多摩動物公園で飼育されたリオックは、展示ケースに置かれた物の隙間へ入り込むことが多く、地面へ潜ろうとする行動も見せました。
飼育担当者によると、日中は物に挟まって過ごしていることが多く、普段はあまり動き回らなかったといいます。
大きな体で目立つ昆虫ですが、狭い場所へ体を入り込ませて落ち着く姿も、リオックの特徴的な行動のひとつです。
リオックは何を食べる
肉食性の大型昆虫
リオックは肉食性の強い昆虫として知られています。
大きな大顎を持ち、動物質の餌を噛みながら食べます。日本では昆虫バトル映像でほかの昆虫などに噛みつく姿が有名になり、その捕食性もよく知られるようになりました。
一方、野生個体を対象にした詳しい食性調査は少なく、自然界で普段どの獲物を多く利用しているのかについては十分な記録がありません。
大顎で隠れ場所を整える
リオックの大顎は、食べ物を噛むだけに使われるわけではありません。
多摩動物公園では、リオックが落ち葉や床材として敷かれたヤシガラチップを大顎でくわえ、隠れ場所へ引き込む行動が観察されています。
展示ケースに置かれていた造花を細かく切ったこともあり、その後、切った物や落ち葉などを周囲に集めていました。
さらに、水入れを床材で埋めてしまう行動も繰り返したといいます。
大きな大顎は食事だけでなく、周囲の物をつかみ、切り、運ぶときにも活躍しています。
さなぎにならずに成長する
リオックは、卵から生まれた幼虫が脱皮を繰り返しながら成虫へ成長します。
チョウやカブトムシのように、幼虫と成虫の間にさなぎの時期はありません。この成長方法を不完全変態と呼びます。
幼虫は成虫と基本的に似た体つきをしていますが、体は小さく、翅もまだ成虫のようには発達していません。
脱皮を繰り返すにつれて体が大きくなり、成虫になると長い翅を備えた姿になります。
脱皮によって体を大きくする
昆虫の体を覆う外骨格は、そのまま大きく伸び続けることができません。
そこでリオックも、成長するたびに古い外骨格を脱ぎます。脱皮した直後の新しい外骨格は柔らかく、この間に体を広げ、その後しだいに硬くなっていきます。
こうした脱皮を繰り返すことで、大きな頭部や大顎、太い脚を持つ成虫へ成長します。
Sia属にはほかの種類もいる
現在、Sia属にはリオック以外の種類も知られています。
Sia incisaはマレー半島とスマトラ島から知られる種類です。かつてはリオックの亜種として扱われたこともありましたが、現在は別種になっています。
2020年には、ボルネオ島北部からSia bugajusが新種として記載されました。
過去にはジャワ島、スマトラ島、ボルネオ島などに同じリオックが広く分布していると考えられた時期もありましたが、詳しく調べることで、地域ごとに異なる種類が分布していることが分かってきました。
リオックの仲間と分類研究
リオックが属するStenopelmatidaeと、その近縁の昆虫については、現在も分類や進化の研究が続いています。
2013年の研究では、東南アジアに生息するSia属の仲間が発達した翅を持つ一方、南部アフリカに分布する近縁グループには翅を持たない種類がいることが整理されました。
さらに2024年には、多数の遺伝子を使ってStenopelmatidaeと近縁群の進化関係を調べた研究が発表されました。その結果、現在使われている科の分類と進化の系統が完全には一致しないことが示されています。
大型で独特な姿を持つリオックの仲間は、外見だけでなく分類の面でも研究が続けられている昆虫です。
日本では昆虫バトルでも知られる
日本でリオックの名前が広まった背景には、昆虫やクモ、サソリなどを対戦させる昆虫バトル作品があります。
2009年には『虫皇帝シリーズ 完全決着版 化け物巨大コオロギ・リオック降臨!』が制作され、タイトルにもリオックの名前が使われました。
作品ではリオックがさまざまな相手と対戦し、大きな体と発達した大顎で噛みつく姿が強烈な印象を残しました。
そのため現在でも、リオックは「強い昆虫」「最強昆虫」の候補として名前が挙がることがあります。
まとめ
- リオックはインドネシアのジャワ島に生息する大型のバッタ目昆虫です。
- 大型個体は体長8〜9cmほどに達します。
- 大きな頭部と発達した大顎、太くトゲのある脚、長い触角が特徴です。
- 成虫には発達した翅があります。
- 大顎は食事だけでなく、落ち葉や床材などを運ぶときにも使われます。
- Sia属にはスマトラ島などに生息するSia incisaや、ボルネオ島北部に生息するSia bugajusもいます。
- 日本では昆虫バトル作品への登場でも知られています。
リオックは、巨大な体と大顎の迫力だけでなく、隙間に潜り込み、周囲の物を大顎で動かすといった独特な行動も見せる昆虫です。日本では「強い昆虫」という印象が目立ちますが、その体のつくりや行動にも興味深い特徴が詰まっています。
主要参考文献・参照ソース
- Orthoptera Species File「Sia ferox Giebel, 1861」
- Gorochov, A. V. (2021) The Families Stenopelmatidae and Anostostomatidae (Orthoptera). 1. Higher Classification, New and Little Known Taxa
- Weissman, D. B. & Bazelet, C. S. (2013) Notes on southern Africa Jerusalem crickets (Orthoptera: Stenopelmatidae: Sia), Zootaxa
- Weissman, D. B., Song, H. & Vandergast, A. G. (2024) Phylogenomics, male internal genitalia, a new species, and other notes on New World Stenopelmatus Jerusalem crickets, Zootaxa
- 東京動物園協会「インドネシアの『おばけ』がやってきた!?」「オバケコロギス、死亡しました」
- 立川経済新聞「多摩動物公園に飼育担当者泣かせのオバケコロギス」

